逢ひみての ページ35
海人に会ったらきちんと話をしようと思っていたのに、結局次に顔を合わせたのは大学の夏休みが終わってからだった。
というのも、元太が帰った後私は急に体調を崩してしまって、しばらく寝込んでいたからだ。あまり食べられなかったおかげで、少し痩せたかもしれない。
「A、久しぶり。」
「宮近くん、久しぶりだね。……っていっても、夏休み中の特別講義以来かな。」
「あ、そっか。じゃあ、そんな久しぶりでもないか。」
そう言って、うらやましいほどはっきりした二重の目を細めて笑う。宮近くんは少し日焼けしたかな、なんてぼんやり思いながら横顔を見ていると、背後に別の気配を感じた。
「海人…!」
「ねむ、目開かんのだけど。」
動揺しているのはまるで私だけみたいで、海人はいつもと変わらない様子でそこにいた。
「…あ、あのさ。前、電話で話したことだけど…」
「電話?」
「うん。…え、覚えてない?」
いつだそれ、と考えるように目を泳がせたのを見て、本当に覚えていないんだと驚かされる。
「覚えてないなら、いいよ。海人、酔ってるみたいだったし。」
「うわ、海人やってんな(笑)。」
「うるせえ。海斗だって、普通に飲んでんだろ。」
そう言うと、海人は何かを思いついたような顔でこっちを見た。若干口元がニヤついているようにも見えて、私は嫌な予感がした。
「…カフェの店員なんだって?相手。」
「へ?」
「元太から聞いた。」
状況を理解した瞬間、頬が熱くなるのを感じて思わず両手で押さえた。元太は本当にいい子だけど、時々口が軽い。七五三掛さんのことは、海人には黙っておくように頼んでいたのに。
「噂で聞いたんだけど、そいつめちゃくちゃ遊び人らしい。」
「…え?」
上手く出せなかった声が、情けなく裏返る。私がおそるおそる海人の顔を見上げると、さっきまでの意地悪そうな薄笑いが嘘のように消えていくのが見えた。
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作者名:おさと | 作成日時:2023年3月18日 13時