・ ページ34
「…海人、お酒飲んでないよね？」
『ここ、先輩の家だし。別に、年齢確認とかされないけど。』
「そういう問題じゃないって。私たち、まだ20歳なってないんだよ？」
沈黙の後、短いため息が聞こえる。うざい、とか、クソ真面目、とか言われるんだろうと思った。
でも、次に聞こえたのは予想もしていなかった言葉だった。
『……誰のせいだと思ってんだよ。』
え？と聞き返す声が、かすれる。まとわりつく熱気が、急に湿度を増したように感じた。
『19年だよ、俺は。数ヶ月そこらで何も言わないでいなくなるようなやつに、お前はなんでそんなこだわってんだよ。』
「海人、酔ってるの？」
何か返事があるかと思ったけれど、電話の向こうで海人は黙ってしまった。不安になって、もう一度呼びかける。
『19年、近くにいたんだよ。お前のせいだよ。』
「海人、ごめん。」
『A、』
「ごめんなさい。」
自分の放った「ごめんなさい」が、やけにはっきりと響く。一瞬、間があいた。
『お前の気持ちなんか、見てればわかるんだよ。わかってるけど、やっぱり、』
そこで、言葉が途切れた。ゴクリと何かを飲み込んだような音が聞こえた気がする。
『…明日、元太のことちゃんと送って行けよ。』
おやすみ、と言って、電話はプツリと切れた。ツーツーと無機質な音を聞きながら、私はしばらく立ち尽くしていた。
余計に体をほてらせるような生温かい夜風が、伸びてきた髪を乱していく。スマホを持っている左手で、とっさになびく髪を抑えた。
スマホの熱から解放された左耳は、嘘みたいに熱くなっている。私はその耳をそっと手で包み込んで、ただ夜風に肌を湿らせていくことしかできなかった。
「乱れそめにし」終
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 93人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おさと | 作成日時：2023年3月18日 13時
