いまを春べと (ページ33)

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「その点海人は姉ちゃんのことよくわかってるし、めちゃくちゃ優しいよ。だって、東京までの交通費って高えじゃん。」

「え、どういうこと？」

「どういうことって…。俺の分の新幹線代、出してくれたの海人だよ。姉ちゃんがめっちゃ落ち込んでるから、お前会いに来てやれないかって。……え、聞いてない？」

なにも、と言うと、元太はそばにあったクッションを抱きしめて体を丸めた。ヤバいヤバい、余計なこと言ったかも、と小さな声でつぶやく。

「…俺、明日早いから。」

明日の新幹線はそこまで早い時間でもないのに、元太はそう言ってそそくさとシャワーを浴びに行ってしまった。

よほど気まずいのか、シャワーから戻ってきても私とは目も合わせない。元太は雑に髪を乾かした後、急遽買いそろえた薄っぺらい布団に入って、さっさと眠ってしまった。

元太の規則正しい寝息が聞こえ始めたのを確認してから、私はスマホを持って外に出た。息苦しさを感じるような夜の熱気に肌をさらしながら、電話のマークをタップする。

『…もしもし、』

だいぶ長く鳴らした後、スマホから聞こえてきた海人の声は、不思議といつもより柔らかく聞こえた。

「海人、ごめんね。こんな時間に。今大丈夫？」

『大丈夫だけど……なに？』

「元太から聞いたの。交通費、全部出してくれたんだってね。本当に、ごめんなさい。」

『あぁ…。お前が元気ないって言ったら、すぐ行くって言ったんだよ、あいつ。マジで優しいやつ。ちゃんと、大事にした方がいいよ。』

「うん。私も、元太が悩んでたらとんで帰る。海人に借金してでも、すぐ帰る。」

『いいけど、利息付きで返せよ。』

ふ、と笑ったような息づかいが聞こえたのと同時に、電話の向こうから騒がしい声が聞こえる。

その中から、もっと飲め！と男の人の声が聞こえて、私は胸のあたりがひんやりとするのを感じた。