いまを春べと (ページ32)

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あれは、中学３年の春だった。

私たちの中学では３年の5月に修学旅行があって、あの頃は進級早々みんながソワソワしていた。受験前にはしゃげる、最後の時間だったからかもしれない。

いわゆる行事ハイのような状況で、同級生の多くが考えていたように、私も当時片思いをしていた男の子に旅行中告白をしたいと密かに思っていた。今となっては微笑ましいようだけど、当時はなかなか切実に思いを募らせていた記憶がある。

当日になって、私はちゃんとその子に思いを伝えた。でも、彼からの返答は全然想像もしていなかったものだった。

“海人と、付き合ってるんじゃないの？”

そう言われたときは、本当に頭が真っ白になった。後から聞いた話によると、前の日の夜、男子の間で好きな子は誰かという定番の話題になったらしい。

その時、男子の１人が海人と私が幼馴染だということを知っていて、２人は付き合ってるんじゃないかと騒いだ。その時海人がはっきりと否定しなかったせいで、噂になってしまったらしかった。

「…あの時、どうして否定してくれなかったのって言ったら、海人笑いながら言ったんだよ。『どうせ告白なんかしても、フラれんのがオチだろ』って。」

海人はいつもそうだ。私の好きな本もバカにしてきたりするし、私の大事なものを大事にしてくれない。

「…でもさ、今だから言うけど、姉ちゃんの好きだった人？あの先輩同じサッカー部でさ、俺ら後輩からは結構評判悪かったんだよ。すぐ怒鳴るし。まあ、後輩から見た顔がその人の全部じゃないんだけど。」

元太は小学生の頃からずっとサッカーをやっていて、先輩後輩問わずつながりも多い。今となっては居場所もわからないあの彼は、弟や他の人から見るとそういう一面もあったのかと今さら驚かされる。

それと同時に、急な不安も覚えた。当然と言えばそれまでだけど、私たちは他人の全てを理解できるわけではない。それなのに、好意を持ったり嫌悪感を覚えたりする。

そんなありきたりなことが、今の私にはひどく怖いことに感じられた。