いまを春べと (ページ28)

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大学の夏休みは長い。

9月も夏休みだなんて贅沢だな、と思いつつ、だらだらと時間を過ごしていたある日、海人から急に電話がきた。

『Aさ、今度の三連休暇？』

「三連休？…別に、予定はないけど。」

『土曜の昼過ぎ、元太がこっち来るってさ。で、月曜の昼くらいに向こう戻るらしい。二泊三日だな。』

「え、元太が！？待って、そもそもどうして海人に連絡が来てるの？」

元太は、私の２歳下―高校２年生の弟だ。

『まあ、話の流れで。お前、家泊めて東京案内してやれよ。』

「そんな、急すぎるよ…。」

『さっき暇っつったろ？駅までなら俺が迎えに行くし、姉ちゃんなら面倒くらい見てやれって。』

そう言われても、元太の喜びそうな観光スポットなんてほとんど知らない。布団はどうするかとか、あれこれ考えているうちに電話が切れて、すぐに元太が乗る新幹線の詳しい時刻がメッセージで送られてきた。

そもそも元太は、両親に旅費を出してもらえたんだろうか。反対を押し切って進学した手前、私は帰省の費用を援助してもらうように頼むことはできなかった。だからこの夏休みは帰省できなかったし、お正月までに帰省の費用を貯めればいいかなと思っていたくらいだ。

だからこそ、元太と会えるのは想定外だった。明るくて私とは正反対だけど、実は気遣い屋で優しい弟。こんなことを言ったら笑われそうだけど、私は弟が好きだ。

せっかくわざわざ上京してくるのだから、元太には楽しんでほしい。私は一念発起して、スマホ片手に観光関連のサイトをあさり始めた。