いまを春べと (ページ17)

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お昼を食べることにした美術館併設のカフェで、私は自分の聴覚過敏のことを話した。

ためらいがなかったわけではない。この人に話してどうするとも思った。でも、同時にこの人になら話したいと思ってしまった。

「なるほどね。そういうことだったんだ。」

「…はい。」

「遠慮しないで、ヘッドホンとかつけていいんだよ。Aちゃんが辛い方が嫌だから。」

「すみません…。」

「謝んないでよ。他にも何かあったら、今度から正直に言って。」

「今度から、？」

私の聞き間違いだろうか。さりげなく聞き返したつもりだったけど、ちょうど料理が来たせいではっきりした答えはもらえなかった。

結局信じられないほど一口の小さい七五三掛さんのペースに合わせてご飯を食べているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。

「…じゃあ、そろそろ行こうか。」

「はい。」

心なしか少し長めのお手洗いから戻った七五三掛さんに頷いて、私も席を立つ。

彼が私を連れてこようと思ってくれたのは、実はこの美術館の企画展だったらしい。百人一首がテーマの浮世絵が展示されていると知って、私は思わず七五三掛さんの方を振り向いた。

「前、熱心に本読んでたでしょ？こういうの好きかなって。」

俺は全然詳しくないから教えてね、と付け加えて七五三掛さんは優しく笑った。

彼がこういう分野に興味を持っていないことは、きっと本当だ。今までの会話から、大体察しが付く。だからこそ、私は少しでも楽しんでもらえるように話をしながら展示を見た。

「…あ。『忍ぶれど』、」

「ん？」

「私の好きな和歌です。」

「どういう意味なの？」

「恋の歌なんです。隠しているつもりだったのに、周りに『恋でもしてるの？』って聞かれるくらい恋心が顔に出てしまっていたっていう。」

「へえ、かわいいね(笑)。」

はい、と頷いて小さく笑い合う。展示室の中で声をひそめながら話していると、内緒の話をしているようで少しくすぐったかった。