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電車が目的の駅に着くと、店員さんはためらいなく私の手をつかんで、人の少ない方へと引っ張っていった。
改札を抜けてざわめきから解放された瞬間、その手がパッと離れる。
「…ごめんね。」
てっきり急にあんなことをしたことを謝っているのかと思ったけれど、そうではないみたいだ。店員さんは、私の目線に合わせてかがむと丁寧に私の前髪を直し始めた。
「せっかく綺麗に巻いてきてくれたのに、髪崩しちゃったかな。」
「え、そっち？」
呆気にとらている私に、店員さんはにっこりとほほ笑んで言った。
「もうすぐお昼だし、休憩ついでにもうご飯食べちゃおうか。少しだけ、歩ける？」
その目に少しだけうかがうような色が浮かんだのを見て、やっぱり心配してくれていたんだと気づく。はい、と私が頷けば、店員さんも安心したように頷いてくれた。
「…Aちゃん、もっと近く歩いてよ。心配だから。」
歩き出してすぐ、半歩どころか一歩くらい後ろを歩く私の方を、店員さんは不服そうに振り返った。
「俺が、いきなりあんなことしたから？」
「え？あ、いや…」
「電車ですごく怖がってるように見えたから、誰か顔見られたくない人でもいるのかと思ったんだけど……違った？」
なるほど、そう見えていたのかと、私は少し驚いた。
「七五三掛さん、発想が豊かですね。」
「えぇ、そうかな。……ていうかAちゃん、七五三掛さんって硬くない？」
「じゃあ、なんてお呼びすれば…」
「うーん…龍ちゃん、とか？」
「なんですかそれ(笑)。」
そういえば私の方は随分スムーズに名前で呼ばれているな、と今さら気づく。それを言うと、七五三掛さんは「今気づいたの？」となぜか困ったように笑っていた。
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作者名：おさと | 作成日時：2023年3月18日 13時
