S.tiger【病系短編集】17

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龍「っし、しんぉ、新郎、ぉ、…の、ぁ、兄、の、っりゅや、と、申し、ぁ、ます、」





「新郎」の言葉で、すぐに兄ちゃんの手の中にある紙の正体が分かった。あの日、俺の結婚式の日。兄ちゃんがやろうとして、最後までできなかったあのスピーチだ。





…でも、なんで今？







海「なあ、兄ちゃ…」



龍「…っ、おぉ、おっと、…んぅ、おとう、とが、この、よぅ、に、す、素敵、なぁ、方、とっ…、ぇ、出会、い、うっ、結、ばぇ、て、きょ、の、佳き、日を」





超がつくマイペース人間の兄ちゃんには、俺の声も届いていないらしい。こうなったら、もう黙って見守るしかない。









“今日の佳き日を迎えられたことは、皆様のおかげだと心から感謝しています。本当に、ありがとうございます。”





この妙に仰々しいスピーチの序盤を終えるのに、たっぷりと時間がかかった。さすがに疲れたのか、兄ちゃんが大きく息を吐く。







海「あんま無理すんなよ…」



龍「かっ、と、は、すご、く、…っあ、泣き、うぅ、虫で、お、お、…弱っち、ぃ、子、でっ、た。」





無視かよ、と内心ため息をつきながら、また兄ちゃんの声に聞き入る。なんか、恥ずかしい暴露でもされるんかな。





龍「ぇ、でもっ、あっ、あっと、ま、…んっ、……あっと、いぅ、間にっ、ぉ、僕、よぃ、大きぅ、なって、や、やく、やっ…」





言いにくい単語があるのか、兄ちゃんの声がつっかえて、先に進まなくなった。申し訳ないと思いつつ、兄ちゃんの手元の紙を覗き込む。





海「…野球？」





泣きそうな顔で頷く兄ちゃんの肩をさすりつつ、さっと文章に目を走らせる。







“海人は、昔はすごく泣き虫で弱っちい子でした。でも、あっという間に僕より大きくなって、野球もやったりして、どんどん強い子になっていきました。”





手に力が入りすぎてシワシワになった紙には、母さんの丸っこい字でそう書いてあった。

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