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宮「っ…、ぁ…!」
ガタガタと響く音に導かれて海斗のところへ行けば、車いすの上で激しく痙攣する海斗の姿が目に飛び込んできた。
嚥下能力が弱くなってきた海斗は、意識を失っている今みたいな状態だと唾液とか痰をのどに詰まらせる可能性が高くなる。俺は吸引の手順を頭の中でなぞりつつ、念のため吸引器の準備をした。
閑「……落ち着いた、かな。」
心配していたほど発作は長引かなくて、痙攣が始まってからちょうど3分くらいで海斗の動きが落ち着いた。最近にしては、比較的短い。
宮「っ…、はぁ、」
大きく息を吐いた海斗の顔が、力尽きたように横に傾く。発作後はこうやって眠り込んだ後、大抵しばらくは起きない。目が覚めても最近の海斗はしばらく朦朧としてるし、今日はもうまともに会話もできないかもしれない。
閑「…海斗、ゆっくり休んでな。」
同い年の男とは思えないほど小さな頭に手を添えて、口角に残った泡をそっとぬぐう。そのまま俺は重たい腰を上げて、台所に戻った。
全く味気のないそうめんが入った椀をもって海斗のそばに腰を下ろすまで、10分とかからなかった。テレビもつけない無音の部屋の中で、麺をすする音がやけに響く。
宮「…んぅ、」
部屋の静けさを、思いがけず海斗の声が破った。まだうつろだけどその目は確かに開いていて、開け放たれた窓の方に顔がぎこちなく傾く。
閑「え、海斗?どうし、」
宮「…っ、んっ!」
声を出した俺をたしなめるように、海斗が声を絞り出す。静かに、と言われたような気がして、俺は大人しく口を閉じた。
猛暑日だった昨日とは打って変わって、涼しい風。網戸の隙間から吹き込むそれに、かすかな喧騒が混じっているのを感じた。
閑「…あ。」
祭り、かも。
かすれた俺の声に、海斗の頬が上気する。
宮「っ…!まー、り、!」
「祭り」というワードを聞いた瞬間、きらきらと輝きだす海斗の目。その光には、確かに見覚えがあった。
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雅 - ↓もしよろしければ書いていただけると嬉しいです。ご検討のほど宜しくお願い致します。 (2022年10月30日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 赤が酷いトゥレットに苦しむお話。白目を剥いたり、身体が勝手に暴れたり、大きな声が出たり、意味のわからない声を出し続けたり、首振りが止まらず吐いたり。症状でストレスが溜まり、ストレスで症状が悪化する負のループ。友達も出来ず双子の黄だけが唯一の味方。 (2022年10月30日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
こまち - そして貯めたお金で誕生日プレゼントを買おうとしていた。しかし何も知らない桃はその日も緑を叱る。そして翌日。プレゼントを買った緑はバイトを終え急いで帰ろうとし交通事故に遭う。病院に駆けつけた桃は冷たくなった緑と対面。全ての事実を知った桃は泣き崩れた。 (2022年10月26日 18時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
こまち - 桃×緑(兄弟)のお話をお願いします。早くに親を亡くし2人で暮らす。弟の緑は最近夜遅くまで帰ってこず桃との関係はピリピリ。でも実は家計が苦しくても自分を養ってくれる桃のため学生の緑は複数のバイトを掛け持ち夜遅くまで働いていた。→ (2022年10月26日 18時) (レス) id: e020254286 (このIDを非表示/違反報告)
ぺえ(プロフ) - こんばんは!リクエスト失礼します🙇🏻♀️「やさしいひと」がすごく好きなので、同じ設定でまたお話書いていただきたいです!よろしくお願いします、おさと様のペースでこれからも更新頑張ってください、楽しみにしてます! (2022年10月26日 0時) (レス) id: 8c7e5fe0be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年10月16日 19時