百二十八話 ページ8
一期達の策は思惑通りに進み、豊臣側の重役達は“鬼”を新たな敵として警戒し、保身的な体制を崩さない方向で歴史を進める事が出来た。が、Aの眉間には皺が寄ったままだ。
彼女が憤慨している理由は言わずもがな薬研の負傷の件である。彼等の策については彼女も了承してはいたが、それはあくまで出来るだけ怪我をしない様にと言った上でだ。勿論この場は常に油断出来ない地であり、無傷で歴史修正を達成出来るほど甘くはない事は彼女も分かっている。しかし…。
「だからと言って、『ちょっと怪我したけどお陰で信憑性が増したぜラッキー』とか自分の怪我を軽んじないの。こっちは生きた心地がしなかったんだから全く」
「あー、すまん大将。だが本当に軽い掠り傷だからよ。そこまで重く捉えんでも」
「なんて？」
「……」
「薬研。今は何も言わずに処置を受けなさい」
薬研の言葉を遮る様に放たれたAの一声は、先程までとは打って変わって軽いもので怒気は含まれていない様に聞こえる。…が、明らかに怒っている。一同はそれを汲み取りそこからは誰も何も言葉を発する事なく処置は進み、一度きつく締められた包帯を適切な緩さに巻き直し…。
「今回はたまたまだったけど、自分を蔑ろにする様な事は出来るだけしないで」
「…だがな大将」
「任務達成が最優先。その為に必要な無茶や犠牲があるのは覚悟してる。全員無事に、何の苦労も無く戦終了とか、そんな甘い考えだって持ってないよ。だからこれは私の我儘で、八つ当たり」
「……」
「悲しいのは嫌だよ？私」
巻き終えた包帯を優しく撫でながら少しプリプリと怒った顔で薬研を見つめるAは、表情に反してもう怒ってはいない様子だった。
本来であれば、彼女のこういった発言は諫めるべきなのであろうが、狙っての発言なのか、この様な狡い言い方をされてしまっては叱るに𠮟れない。恐らくAにそれを言ってもこの考えを曲げる事はしないと分かっているから。そして何より、いつだって他者を優先する主の、唯一の我儘なのだから。
薬研が小さく悪かったと溢せば、Aは漸く固くなった表情を緩め、笑みを浮かべた。
「はいおしまい」
――バシッ！
「イ゛ッ!?〜〜〜!!」
最後に一発包帯を巻いた箇所に平手打ちし、薬研は短い悲鳴を上げ腕を押さえて蹲った。叩かれた場所が熱を帯び酷くじんじんと痛むが、それでも日頃の彼女の腕力を考えるとかなり加減はしていたと思われる。
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まゆみ - ふてくされ、他の人に迷惑だから出て (4月11日 22時) (
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作者名：渚 | 作成日時：2023年4月25日 22時
