【刀剣乱舞】天仰ぐ百合の彩伍 (ページ6)

今日:5 hit、昨日:7 hit、合計:9,526 hit

百二十六話ページ6

大阪冬の陣。その命運を大きく分けたとされる真田丸は、豊臣の主将として軍を取り纏めていた大野治長が、前衛部隊であった真田信繁が提案した、総大将である豊臣秀頼と共に先陣に出陣し京を支配下に入れるべきという策を突っぱね、籠城戦で徳川軍と戦うと強制的に決定した事で講じられた出城である。

この時の徳川軍の兵の数は二十万、それに対し豊臣に集まった兵の数は九万。圧倒的な戦力差であったが、当時の大阪城は内堀と外堀に水を敷き、更に運河と河川に囲まれていた為に難攻不落の城とされていた為、豊臣の重役達はその要塞の守りに驕り、前線で戦う者達の声に耳を傾けなかった。

しかし実際には難攻不落の城にも弱点はある。それは大阪城の南口より少し西側に存在する平野口と呼ばれる場所。此処だけが唯一堀の中に水が通されていない空堀であり、その前面には文字通り平野が広がっている。此処を攻めれば大阪城への侵入は容易なものとなる事を、信繁は理解していたのだ。

　

「この戦において、前衛軍を奮い立たせていたのは真田信繁だ。彼がこの策を講じ実力を示した事で、その信頼は大野治長をも上回るものになった。…だがそれは、あくまで前衛軍の中だけの話だ」

「あぁ。史実通りなら、今後もお偉いさん方は守りに徹する筈だ。その結果、夏の陣では籠城戦になり豊臣は滅びる。…筈なんだが、今の時点で何故か豊臣全体が信繁に異様な信頼を見せている」

「多分このままだと、上の人達は信繁さんの言う通り、本陣に打って出る可能性もあるかも。一体どこから歴史にズレが出たのかな？」

　

腕を組んで考えを巡らせる一同。現時点ではまだ修正の余地はあるため焦る段階ではない。ここで重要なのはいつ歴史が変わったかではなく、遡行軍の最終的な目的だ。このまま豊臣軍の士気を上げ、信勝の思惑通りの戦に持ち込むのか、はたまた別の目的があるのか…。

　

「……今はまだ保守的な傾向にあるから、少し細工をして軌道修正しよう。鯰尾、薬研、頼めるかい？」

「もちろん！ちゃんと甲冑はくすねてるからね」

「おう。軽く引っ掻き回してやるか」

　

……悪い顔がそっくりな二人だ。

意気揚々と甲冑を着込む二人を見ながら笑みを浮かべ、さて、自分がすべき事は何かと一期は再び思考を巡らせた。遡行軍の目的は何なのか。他に見落としている点はないか。この先に起こる重要な出来事を思い返す一期の髪を、凍てつく夜の風が靡かせた。

―――嫌な予感は、まだ拭えない。