百二十四話 ページ4
「いち兄、大将は何を観測したんだ？」
「時間遡行軍の反応が、鴫野の戦いを終える辺りから二か所に分かれているらしいんだ」
「…ほお。場所は言わずもがな、か」
薬研の目が鋭く光る。一期は薬研が察したのを横目に格子越しに怪しく月に照らされた大阪城に鋭い視線を向けた。
Aが察知した鴨野の戦い以降の歴史の乱れ。それは豊臣と徳川、その双方から観測されたというのだ。正確に言うのであれば、豊臣側に付いていた真田と、徳川の連合軍の陣営からである。
「…真田丸、か」
「恐らくね。あの戦が大阪冬の陣の中で、もっとも徳川を苦しめたとされるものなら、どちらかの歴史を軽く弄るだけで大きく変わってしまう可能性は充分ある」
「ま、あの戦なら何かしら仕掛けるだろうとは思っていたがな」
やれやれと肩を竦める薬研だが、ある程度こうなる予想はしていたらしい。それは一期も同じ様で、顔を顰めてはいるもののそこまで冷静さを欠いている様には見えなかった。
――真田丸の戦い。大阪冬の陣の終盤に行われた戦。
豊臣方の武将である真田信繁、もとい真田幸村が大阪城の南側に出城を築き、徳川の大軍を討ち取ったとされる籠城戦。この戦の勝敗によっては夏の陣まで続く事無く大阪の陣は終わっていたかもしれない程、歴史に名を刻んだ重要な分岐点。遡行軍が目を付けない筈がない。
「兎に角まずは鴨野の戦いを歴史通りに終える事を最優先に考えよう。真田丸の歴史改変については敵の動きを把握しないと分からない」
「いくらでも改変の余地はあるからな、あの戦は。全く働きもんだこって」
「あ、あともう一つ報告があってね。主ではなく近侍の鶴丸殿から」
「ん？大将ではなく？」
小首を傾げる薬研に、困ったように笑いながら一期は小さく息を吐いた。
「主がかなり落ち着きが無いらしい。一人の時は緊張し過ぎてガチガチになっている上に、誰かに気を遣っている時は場を明るくしようと奇行に走って可笑しな方向にぶっ飛んでしまっているから早く帰って来てやってくれ、だそうだ。何でも鶴丸殿と取っ組み合いをして足を攣らせたとか」
「なんだそりゃ。プロレスでもやってたのかよ」
本丸での出来事を想像したのか年相応な表情で吹き出した薬研に、一期も釣られる様に破顔した。その笑顔の裏で、年端もいかない女子が、仮初の体とは言え男と何をやっているんだと説教しなければと頭に浮かべながら。
―――…
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まゆみ - ふてくされ、他の人に迷惑だから出て (4月11日 22時) (
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作者名：渚 | 作成日時：2023年4月25日 22時
