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九十三話 ページ5

「いやービックリしたー。でも久々のアイスはやっぱ美味いねー」

「言ってる場合ですか主殿!あぁもう御召し物までベトベトに…」

「大丈夫だよこれくらい。所で投げちゃったのは鯰尾くん?その体勢から察するにわざとじゃなさそうだけど、足元気を付けなね?」

「だから言ってる場合ですか!?」

「この青色の液体は一体…?」

「氷菓子ですよ。何故か溶けちゃってるみたいですけど、“一期さん”も食べてみますか?まだ厨にいっぱいあったと思うので」

「……だから、言ってる場合…?」

 

呑気に話す三人と置いてけぼりにされている粟田口数振り。その全員が“一期さん”と呼ばれた青年に釘付けになっていた。

 

 
「………いち兄?」

 

 

誰かが小さく、青年の名を口にする。

先程溢してしまったソーダアイスと同じ色の短髪に、粟田口派特有の西洋を思わせる隊服。一見派手な見た目をしているが、物腰がとても柔らかそうな青年。

彼は、粟田口吉光が生涯の中で一振りだけ打ったとされる太刀、一期一振。
かつて豊臣秀吉の愛刀とされていた刀であり、この場にいる藤四郎兄弟の長兄だ。

恐らく顕現されたばかりなのだろう彼は、主へ粗相をしでかしたのが同じ刀派のものと知るや否や、険しい顔をそちらへと向けた。

 

「久し振りに皆の顔を見られると嬉しく思っていたのに、いきなりこの様な…、しかもあろう事か主に不敬を働くなんて…」

「まぁまぁまぁまぁそんなに怒らなくても。私は気にしてないですし、折角の再会なのにいきなりお説教ってのも、なんかアレじゃないですか」

「しかし主、こういう事は今の内にしっかり躾けておかなければ…」

「あ、あの!ちょっと待って下さい!」

 

現状を把握しきれていないらしい粟田口の面々の中で声を上げたのは鯰尾。未だ跨ぐ体勢のまま固まっていた彼は、戸惑いながらも漸く体勢を戻し改めて彼女達へと視線を移した。

本来であれば兄との再会に喜ぶ場面であるが、彼等にとっては喜びよりも困惑の方が大きかったらしい。何故なら一期一振という刀は、審神者の業界では希少性が高く顕現させる事がかなり難しい。故に彼等は一期一振との再会には時間が掛かるだろうと心していたのだ。

こればかりは仕方がない。しかしそれでも、出来るならば早く会いたい。誰もがその思いを内に秘めながらその時を待ち望んでいたのだが、こうもあっさり、なんの前振りも無くポンと出されたのだ。驚くなと言う方が無理な話である。
 

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(プロフ) - 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん» 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん、コメントありがとうございます!絵を描いてる分更新が遅いですが、褒めていただけると本当に嬉しいです。今後も応援宜しくお願い致します! (2022年12月9日 6時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜パスタ(閲覧垢)(プロフ) - 話が読みやすく、かつ設定もよく練られていてとても面白いです。絵もお上手ですね。情景がひしひしと伝わってきます。応援しています(*^^*) (2022年12月9日 4時) (レス) @page24 id: c07d8ae3cf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ライチ@あんみつ神!さん» ライチ@あんみつ神!さん、今作初コメントありがとうございます!久々のコメントでとても糧になります!更新は相変わらず遅くなるかもしれませんが、なんとか完走出来る様に頑張ります! (2022年8月8日 13時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
ライチ@あんみつ神! - この作品大好きです!更新頑張ってください! (2022年8月8日 9時) (レス) @page16 id: 605309b64c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月21日 12時

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