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百十八話 ページ30

―――――…

 

 

第一部隊の面々を送り出し、その場に残された他の粟田口の刀達とA。皆が部隊の帰還を思いながら転送部屋を後にする中、Aだけが暫くその場に佇んでいた。

彼女が見つめる先、そこには何の姿も無い。先程までそこにいた仲間は既に戦地へ赴いている。しかしその瞳は目の前にある何かを見据える様に硬く真っすぐなものだ。

 

「……」

「心配か?」

「――っ!…切国…」

 

部屋の入口からの声にAの肩が跳ねる。しかしそれは見ずとも分かる聞き慣れた声だった為、Aの気は僅かに緩みを見せた。そこにはいつもと同じ、少し仏頂面の初期刀。彼は先程までの出陣の流れを影から見ていたらしい。

 

「うん。正直ね、本当に行かせても良かったのか不安になる。でも、私はもうそれに口出ししない。そもそも出来ないし、皆を信じるだけだよ」

「……」

「…いや…少し違うかな。勿論そっちも本心だけど、一番に心配しているのはその事じゃない。…一番に心配しているのは、私の事…」

 

山姥切の射貫くかの様な眼差しに、Aの目は影を帯びながら伏せられた。恐らく山姥切はAの心情を理解している。そしてAもそれを瞬時に察し、観念した様に思いを吐露し始める。

 

「皆はちゃんと覚悟を決めて、過去に立ち向かう為に戦いに行って…、私は皆がそれを乗り越えられるって信じなくちゃいけないのに…、待っていなくちゃいけないのに…、今すぐにでも飛び出したくなる…。彼等の信頼を裏切る行為だって分かっているのに…、どうしようも無い位に体が疼くの」

「…その感覚は、俺にも覚えがある」

「きっと、此処にいる皆が感じるものではあると思う。だけど皆はちゃんと信じて待っているでしょ?…私はそうじゃない。特に今回は…」

 

部隊を過去へ送り込んでいる中で、Aはよく部隊長と連絡を取り戦況を把握しようとする。しかしそれともう一つ、生存確認の意味も含めて連絡を細目に取っていた。勿論任務達成の為には大切な事ではあるが、しかし彼女にとってそれは、精神安定剤と同じ意味合いのものでもあった。

過保護というべきなのだろうか。A自身もその自覚はあるが、戦場では少しの変化で状況が悪化する可能性は大いにあり、それも相まってAの不安を増長させる。
何がAをここまで駆り立てるのか。それもAは理解しており、そして山姥切も把握していた。

 

「―――あいつらはあんたの弟妹とは違う」

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(プロフ) - 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん» 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん、コメントありがとうございます!絵を描いてる分更新が遅いですが、褒めていただけると本当に嬉しいです。今後も応援宜しくお願い致します! (2022年12月9日 6時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜パスタ(閲覧垢)(プロフ) - 話が読みやすく、かつ設定もよく練られていてとても面白いです。絵もお上手ですね。情景がひしひしと伝わってきます。応援しています(*^^*) (2022年12月9日 4時) (レス) @page24 id: c07d8ae3cf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ライチ@あんみつ神!さん» ライチ@あんみつ神!さん、今作初コメントありがとうございます!久々のコメントでとても糧になります!更新は相変わらず遅くなるかもしれませんが、なんとか完走出来る様に頑張ります! (2022年8月8日 13時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
ライチ@あんみつ神! - この作品大好きです!更新頑張ってください! (2022年8月8日 9時) (レス) @page16 id: 605309b64c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月21日 12時

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