百五話 挿絵5 ページ17
―――その顔を見るのは、二度目だった。
一度目は、骨喰が倒れたあの日。炎を目にし、過去の傷を蘇らせてしまった際に浮かべた顔。その時の表情を彼女は再び張り付けている。
あの時は皆骨喰に気を取られ彼女に目は向けられていなかったが、鯰尾は骨喰の介抱をしながらAの様子も横目に窺っていた。
―――彼女はまるで、絶望したかの様に呆然と佇んでいた。
その瞳には光も生気も無く、目の前の光景から一切目を逸らさない。普段の彼女からは全く想像出来ない程の冷たい表情に、鯰尾は一瞬呼吸を忘れていた。
「………A…さん…?」
「―――ぁ…」
しかしそれは一瞬の事で、鯰尾が小さく名を呼べば我に返った様にAは声を漏らし、再び笑顔を浮かべ先程の顔に蓋をした。
「………、ごめん…、ちょっとビックリしちゃって。でも、そうだね。さっきの鯰尾君の話は、私も自分なりに考えてみるよ」
これは駄目だ。笑っているけど笑えていない。先程よりもずっと酷い顔をしている。
「とりあえずもう暗いから話はこの辺で。きっともうご飯の準備出来てるよ」
Aは鯰尾に背を向け歩き始める。だが恐らく、これはこのまま行かせてはいけない。今彼女を逃したら今後も逃げられてしまう気がする。何より今の彼女を独りにするのは良くないと、頭の中で警鐘が鳴る。
「――っ!Aさん…!」
彼女を引き留めようと手を伸ばす。見れば彼女の手は強く握り締められており、思わずその手を掴もうとする。しかし―――
「―――!」
それすらも、彼女はさせてくれなかった。
掴もうとしていた手は、分かっていたかの様に避けられ鯰尾の手は空を掴んだ。
「…………ごめん…」
微かな彼女の声。しかしその声は鯰尾の耳に嫌でも残った。
それは、明確な拒絶だった。
これ以上踏み込むなと、曖昧だった壁が確かなものだとその一言で定められたのだ。
「………Aさん…」
何も掴む事がなかった手が力無く垂れる。自分を置いて小さくなっていく背中を、鯰尾は只見つめる事しか出来なかった。
―――…
―――――…
―――あの時と同じ言葉に、壊れそうになった。
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渚(プロフ) - 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん» 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん、コメントありがとうございます!絵を描いてる分更新が遅いですが、褒めていただけると本当に嬉しいです。今後も応援宜しくお願い致します! (2022年12月9日 6時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜パスタ(閲覧垢)(プロフ) - 話が読みやすく、かつ設定もよく練られていてとても面白いです。絵もお上手ですね。情景がひしひしと伝わってきます。応援しています(*^^*) (2022年12月9日 4時) (レス) @page24 id: c07d8ae3cf (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - ライチ@あんみつ神!さん» ライチ@あんみつ神!さん、今作初コメントありがとうございます!久々のコメントでとても糧になります!更新は相変わらず遅くなるかもしれませんが、なんとか完走出来る様に頑張ります! (2022年8月8日 13時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
ライチ@あんみつ神! - この作品大好きです!更新頑張ってください! (2022年8月8日 9時) (レス) @page16 id: 605309b64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2022年1月21日 12時