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八十九話 ページ1

粟田口の刀工が世に残した刀は非常に多い。

短刀作りの名手として知られている刀派故に、Aの本丸においても短刀は粟田口が多く、打たれた時代、生みの親が違くとも、新たに粟田口の刀が顕現される度に兄弟として彼等は再会を喜んでいた。そんな彼等にAも心を温かくしながらそれを見守っていたのだが―――

 

 

「―――骨喰藤四郎。すまない。記憶がほとんどないんだ」

 

 

もうすぐ夏が訪れようとしていた本丸に、新たに物静かな脇差が顕現した。隊服を見るに、粟田口の刀だとすぐに分かった。

 

「初めまして、私はAと言います。今日から貴方の主です。宜しくお願いしますね、骨喰さん。……あ、頭に桜が…」

 

顕現した際に舞った花弁が一枚、偶然彼の頭に止まった。それを何となく払おうと思ったAは彼の頭に手を伸ばそうとする。

しかしもう少しで触れそうになった瞬間、その手はペシッと払われた。

 

「え」

「…触るな」

 

あまりに無感情的な物言いに、じっとりとした暑い日であったが、Aの心には凍り付く様な冷風が通った様な気がした。

 

 

―――――…

 

 

「―――という事があって以来、主とはあまり話せていない」

「……あー…、まぁ流石のAさんでもそれはそうなるか」

 

蝉が忙しなく鳴く中、内番を熟した二人の脇差は収穫した野菜達を厨へ運ぼうと庭を歩いていた。一人は骨喰藤四郎。そしてもう一人は同じく粟田口の脇差、骨喰より少し前に顕現していた鯰尾藤四郎だ。

 

「初対面でいきなりそう言っちゃったらそりゃあAさんも接し辛くなっちゃうよ」

「………」

「その時は少し驚いちゃっただけなんだろ?なら謝れば多分大丈夫だと思うよ。まぁあの人なら何かしらの策を練って自分からアタックして来そうだけど」

「俺は主に攻撃されるのか?」

「物理ではないと思うけどね」

 

太陽にも負けない様な笑顔を浮かべる鯰尾に対し、骨喰は自信なさげに目を伏せてしまった。

この会話の通り、Aと骨喰は現在良好な関係を築けてはいない。顕現から一週間ほど経過したが、仕事以外の会話は皆無な上にたまたま鉢合わせしても挨拶か会釈ぐらいしか出来ていない。傍から見れば明らかにギスギスした空気だった為、こうして鯰尾が話を聞いている訳であるが…。

 

「骨喰はAさんとどうなりたい?」

「どう、とは?」

「仲良くなりたいとか、そういうのは無いの?」

「………」

九十話→



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(プロフ) - 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん» 蜂蜜パスタ(閲覧垢)さん、コメントありがとうございます!絵を描いてる分更新が遅いですが、褒めていただけると本当に嬉しいです。今後も応援宜しくお願い致します! (2022年12月9日 6時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜パスタ(閲覧垢)(プロフ) - 話が読みやすく、かつ設定もよく練られていてとても面白いです。絵もお上手ですね。情景がひしひしと伝わってきます。応援しています(*^^*) (2022年12月9日 4時) (レス) @page24 id: c07d8ae3cf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ライチ@あんみつ神!さん» ライチ@あんみつ神!さん、今作初コメントありがとうございます!久々のコメントでとても糧になります!更新は相変わらず遅くなるかもしれませんが、なんとか完走出来る様に頑張ります! (2022年8月8日 13時) (レス) id: 317a1afa0e (このIDを非表示/違反報告)
ライチ@あんみつ神! - この作品大好きです!更新頑張ってください! (2022年8月8日 9時) (レス) @page16 id: 605309b64c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月21日 12時

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