思い出 ページ10
「はい、此処がAの部屋だよ」
太宰は、Aの部屋を案内していた。太宰の家は兎に角広く、何部屋もある。太宰の場合、必要最低限の物しか置いていない所為か空き部屋が何部屋もある。空き部屋の中で一番広く、日差しの良い部屋を太宰は用意させた。中に入って見ると、ある程度の家具が並んでいた。どれも新品だ。
「自由に使っていいからね。一応、昔君が過ごしていた部屋をイメージして部下に用意させたのだけれど…」
Aの部屋には大きなピアノが備えられていた。Aの唯一の特技のピアノだ。Aは魅かれるようにピアノの元に向かい座る。
指を動かす。なめらかな音と指遣い。Aの瞳には懐かしいような、そんな雰囲気があった。ずっと好きだったピアノ。お父様が褒めてくれたっけ、とAは演奏し乍頭に浮かべた。
太宰は、とても美しいピアノの音を聴き乍Aをじっと見つめていた。過去に会った、誰かを思い出し乍ーー
演奏が終わる。Aはふっと椅子の背もたれによし掛かる。久しぶりに弾いたし、何より太宰が見ている中での演奏だ。緊張しない筈がない。するとAは、後ろからふんわりと抱きしめられた。
「…素晴らしい音色だった。此れからも、毎日私の為に聞かせてくれないかい?」
唯一の特技のピアノを褒められて嬉しかったのか、Aは「うん!」と笑顔で答えた。暇な時、いつもピアノを弾いていた為嫌がる理由はなかった。
「ふふ、Aのピアノが聴けるなんて、私は幸せ者だよ」
此の一言でAは疑問を持つ。『太宰は此の政略結婚を喜んでいる』と云うことなのだ。普通、初対面の人といきなり結婚しろと云われたら自分みたいに嫌がるだろう。太宰と会ったことはあるのか、話したことはあるのか。Aは思い出そうとするが、全く思い出せない。
《はい!お兄さんにあげる!》
ふっと思い出す。其れは、花冠をあげようとする幼きAの姿だった。其れ以上は思い出せず、頭を抱えてしまう。
「大丈夫かい?苦しそうな顔をしてるけど…何かあったのかい?」
太宰はAの異変に気付いたのか、心配そうにAの頭を撫でながら聞く。
「ううん…なんでもない」
「そう…何かあったら云い給え」
太宰はそっとAの頰に接物を落とす。案の定、Aの頰は真っ赤に染まってしまう。
「ちょっ…と…」
「さぁ、部屋の案内を続けようじゃあないか」
太宰はAの手を取って部屋を出た。
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鏡音ののり - 控えめに言って神です! (2019年3月22日 8時) (レス) id: 9f03a4e99e (このIDを非表示/違反報告)
味の素(プロフ) - 続きが読みたいです! (2018年7月14日 23時) (レス) id: d5befd4dfc (このIDを非表示/違反報告)
ナタデココ(プロフ) - 気長に待ちます← 高校合格おめでとう御座います! (2018年4月29日 19時) (レス) id: 67a39a2c5a (このIDを非表示/違反報告)
燈火@トモシビ(プロフ) - 受験お疲れ様でした。これからの展開、すごく楽しみです! (2018年3月17日 18時) (レス) id: 8eb3f635ae (このIDを非表示/違反報告)
れいか(プロフ) - 頑張ってください!応援してます! (2017年10月10日 1時) (レス) id: 95ec296d00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆんゆん | 作者ホームページ:http://touch.pixiv.net/member.php?id=17622667
作成日時:2017年5月3日 12時