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こうやって選択肢を委ねる先輩は、狡い人だ。
ここまでしておいて「どうする」とか、普通聞かない。
私の答えを催促するように手首を掴んでいた手を滑らせて指と指を絡ませる。彼が動く度に耳についた銀色のピアスが音を立てて部屋に響いた。
先輩の長い方の髪が顔にかかってしまいそうなくらいには顔が近くて、心臓が煩くて、先輩に聞こえてしまいそう。
「顔真っ赤、かわいいね」
その言葉でもうなんか、キャパオーバーしてしまった。
もういいか、なんて変に吹っ切れてゆっくり瞼を下ろす。
というかセンラ先輩とキスできるって、わたしなんか前世でいいことしたかな。とか馬鹿みたいなことを思いながら、握っていた手の力を抜く。
「目瞑ったら肯定ってとるけど、ええの」
そんなことを言って、センラ先輩は私の返事を聞く前にキスを落とした。
触れるだけのやつなのに、海に溺れるみたいに苦しくて、でもすごく幸せで、しんじゃいそう。
数秒のキスだった気もするし、数分だった気もするし、1時間くらいな気さえもした。
先生が来たらとか、そんなのは気にも止められないまま口を離す。
「……あの、まって、俺ほんまにちゅーしちゃった???」
『え、しました、けど』
「今考えたらやばない?え、付き合ってもない後輩に手出してもうたんやけど」
『えええ…今更すぎませんか……』
さっきのかっこいい先輩とは打って変わって、頭を抱えながら「うあ"あ"〜〜〜……」と嘆くセンラ先輩。
確かに完全に順序は間違ってた。普通は付き合ってからキスするものだ。
というかセンラ先輩が私の事好きなのかすら分かんないんだけど。
『あの、先輩………先輩って結局私のこと好きなんですか』
「え、つ、伝わってない感じ?」
『え』
「俺めっちゃ分かりやすく接してたつもりなんやけど」
『私が一方的に好きなんだと思ってました』
「まって、Aって俺のこと好きやったん?」
なんか、ものすごい情報量の渋滞だ。
……つまり、お互いすれ違ってたってこと??
なんかちょっと納得いかないけど、多分そういうこと。
「……えーと、その、俺は!!前から好き、だったんやけど……」
『わ、わたしも、です』
そういうこと、だ。
2人で顔を見合わせて、小さく笑う。
色々すっ飛ばしすぎて、なんかもういっそ面白い。
『先輩、すきです』
「うん、俺もずっとずっと好きやった」
頭が痛いのなんてとっくの前に忘れてて、残っていたのは唇の甘い感覚だけだった。
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スピカ(プロフ) - わぁ、好きな作者さんがこんなに・・・! (2021年5月5日 13時) (レス) id: 990b6b3e69 (このIDを非表示/違反報告)
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