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あ、そういうことね。

口数が少ないにもほどがあるだろ。と心の中で突っ込みを入れて、丁寧に答える。


「私は両親のお墓参りに来たんです」


すると一瞬彼の目が見開き、また彼は前方の先ほどから何も通らない車道に目をやった。


しばらくの沈黙の後、彼がぼそっと呟いた。


「・・・・・・ごめん」


何に謝られたのか一瞬わからなくて、驚いて彼の方を見る。
彼は少し俯いてこちらは見ていなかったけど、なんだかすごく申し訳なさそうにしていた。


その表情を見て、私は慌てて取り繕った。

「謝らないでくださいよ〜。二人が死んじゃったのはずいぶん昔なので、別にもう悲しくなんてないですから」


悲しくないわけはないけど、彼を励ますために少し大げさに言って笑う。

それでも彼の顔はまた暗くなる一方で、あ、励まし作戦失敗か、と心の中で思う。


たぶん彼は愛犬が亡くなったことで落ち込み、他人の死にも敏感になっているのだろう。



私も両親が亡くなった頃の自分を思い返した。

父から突然告げられた母の死。
入院している姿を見て母が病気だということは知っていたけれど、まさか死ぬなんて思っていなくて私は相当荒れたっけ。


その三年後の事故で父が亡くなったときは悲しみを通り越して何も考えられなかった。

ぼーっとしながら親族の家を渡り歩き、自分の生きている意味を見失う日もあった。

そんな私でも今は新しい両親ととても幸せに暮らしている。



彼も数年後にはきっと、克服できているはず。



そんなことを考えていると、バスの時間まであと五分というところでまた彼が口を開いた。



「今はどうやって生活してるの」


彼の質問は、私が両親がいないという話をすると大抵の人に聞かれる質問だった。

いつも通りみんなに答えるように返答すると、彼は「そっか」と一言返すだけだった。


その後すぐに、目的のバスが到着した。








帰りのバスの中ではついに爆睡してしまい、私は終点のソウル駅まで一度も目を覚まさなかった。


運転手さんに起こされ目を覚ますと、そこにはもう彼の姿はなかった。

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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時

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