you ページ39
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ユンギさんを上から下までなめ回すように見る私を見て、行くぞ、といぶかしげな目をしながら彼はひとこと言うだけだったが、内心満更でもなさそうだった。
私の格好を一瞥し、彼は歩き始める。
どこに行くんですか、と問うと、ユンギさんは私を振り返った。
「・・・・・・映画とかどうだ」
ユンギさんと二人で映画館へ行く。その間も私の脈を打つスピードは尋常じゃなかった。
隣に並んで歩いている彼は特に表情を変えることなく、黙々と足を進めている。
それに対して自分は寿命さえも縮んでいる気がした。
映画館で何を観るか決める。本日の上映スケジュールの前で、ユンギさんがどの映画がいいか聞いてくれた。
私は最近公開されて気になっていた話題作を指さす。
ユンギさんはそれを見て頷き、チケット販売機に方へ向かった。
それぞれドリンクも注文し、受け取る。
私はココアを頼もうと思ったけれど、夏季はココアはないと店員に言われ、しぶしぶアップルジュースにした。
ユンギさんはいつも通りアイスコーヒーだった。
そして彼は当然のように支払いをしてくれた。
私ももちろん財布を出したんだけど、カード一括で払われたらどうしようもない。
入り口のスタッフにチケットを渡し、入場する。
座席に着くと週末であることと人気映画であることが相まってか、かなり混んでいることがわかった。
上映中も、映画の内容に集中したいのに、すぐ隣にいるユンギさんのことが気になって仕方がなかった。何より自分の大きな心音が彼にも聞こえているんじゃないかと気が気でなかった。
暗いシアター内でスクリーンの光に照らされた彼の横顔を、こっそり見ては幸せを噛み締める。
話の終盤を迎えるとさすがに内容に引き込まれていた。正面の大きなスクリーンに目を向けたまま、自分のジュースに手を伸ばす。
そしてそのままストローに口を付けると、
ん?? にがっっ!!
それは私のジュースじゃなく、明らかにアイスコーヒーだった。
ユンギさんのコーヒーを間違えて飲んでしまったことに気が付き、ちらっと彼の方を窺うと、
彼はそんな私に気づき、声を押し殺して笑っていた。
俯いて腕を組み、肩を震わせているのが暗い映画館の中でもわかる。
震えが収まると私の顔を見て、また笑い出す。
スクリーンでは大どんでん返しの超弩級感動物語が繰り広げられているというのに。
私は恥ずかしすぎて、上映が終わるまで彼の顔を見ることができなかった。
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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時