you ページ37
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連続で二曲流してくれた。
両方とも声は入っていなくて、まだ編集の段階というのが素人の自分にも分かった。
「とりあえずこの二つのどちらかを新曲として採用しようと思ってるんだが、イムAはどっちの方が好きだ」
ユンギさんが私からイヤホンを受け取り、聞いてきた。
えっ、私みたいなド素人の意見聞いちゃうの??
曲を聴かせてくれたことに対する喜びと、その意図に対する驚きとで、内心混乱した。
残念ながら私は音楽は趣味程度に聴くだけで、作曲には全く精通していない。
「えっと、正直どちらも好きなんですけど・・・・・・」
どちらか一方を選べば、選ばなかった方を否定することになる気がして、しっかりと前置きをする。
「強いて言えば、二つ目かな・・・・・・」
そう遠慮がちに言うと、彼は大きく頷いた。
「そうか。実は俺も二つ目の方がいいかなと思ってた」
じゃあこっちを使おう、と彼が呟き、また作業を開始した。
素人の私の意見で簡単に決めていいことなのか分からなかったけど、ユンギさんが私に意見を求めてくれたことが素直に嬉しかった。
キーボードを打つスピードが早いところも、またかっこいい。
そのまま黙々とユンギさんは何やらよく分からない画面を操作している。
・・・・・・ってあれ、これはもう用無しってことですかね。
またユンギさんがPCの画面に集中し始めたところで、私が席を立とうとすると、彼がこちらを見ずに突然言った。
「週末暇か」
・・・・・・。
「え?」
椅子に座り直し、彼の横顔を見て聞き返す。
ユンギさんは私の様子を横目で見ることもなく、正面にあるキーボードを打ち続けている。
まって、今なんて言った??
彼はそのまま視線をPCに向けたまま、
「暇ならどこかに行かないか」
と言った。
少しの沈黙が挟まる。
ユンギさんはなかなか返事をしない私にしびれを切らしたのか、ようやくこちらに視線を合わせた。
その彼の表情は至って真剣なそれで、冗談とは思えなかった。
えっと、その、それって。
もしかして、いやもしかしなくても、
「デートのお誘い、ですか?」
そう私が言うと、彼は「でっ」と声にならない声を一瞬あげて、すぐに目をそらした。
何もない空中を見上げ、視線を彷徨わせている。
そして彼は手を首の後ろに回し、明らかに照れをごまかすような動作をした。
「・・・・・・まぁ、そういうことになる、かな」
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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時