you ページ32
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それからというもの、ユンギさんは割と頻繁に店に来てくれるようになった。
迂闊にテヒョンくんの話をしてしまったことを最初は後悔していたが、どうやらユンギさんは私の話を肯定的に受け止めてくれたらしい。
ユンギさんは店で私を見つけると、いつも小さく会釈をして「アイスコーヒー」と一言いい、席に着く。
たまに店の本を手に取るところを見かけるが、基本的には自分で持ち込んだノートPCを開き、何か作業をしているようだった。
その真剣な表情に見惚れつつ仕事をこなすのが、私の日常になっていた。
新しくバイトに加わったジミンさんは要領がよく、すぐに仕事を覚えてくれた。
きびきびと動きながらも笑顔を絶やずスマートな対応をする彼は、お客さんの心をあっという間に掴み(というか鷲掴みにし)、ジミンさん目当てに来店する女性客が増えた。
オーナーには新しい息子ができたみたいだ、と喜ばれていた。
「うちの息子は仕事の時以外はゲームばっかりでなかなか話し掛けてくれないし、外に行くとしたら釣りしかしない。ジミンくんみたいに愛嬌があったらなぁ」
というオーナーの言葉を聞いて、ジミンさんは満更でもなさそうに、
「でもオーナーは背が高くて顔も素敵ですから、きっと息子さんもオーナー同様モテモテなんでしょうね」
なんて言うもんだから、オーナーの最近の浮かれ度は最高潮だった。
あんまり調子に乗りすぎたオーナーは、あらゆるお客さんの飲み物やデザートにクリーム倍増サービスなんてし回っている。
先ほど来店したユンギさんも、頼んでもいないのにアイスコーヒーにたっぷりの甘いクリームをのせられてしまい、これまで見たことないほど彼の眉間にしわが寄っていた。
ごめんなさいユンギさん。
このままだと赤字だ、と思い、ジミンさんにオーナーを調子に乗らせるなと釘を刺しに行こうとしたら、そこでドアベルが鳴った。
振り返って見ると、ジョングクが店の扉を開けて突っ立っていた。
ジミンさんが「いらっしゃいませ」といつもの天使スマイルを扉に立つ客人に向ける。
しかしジョングクはその大きな丸い目を更に大きく見開き、動かなくなっていた。
私が不思議に思い声をかけようとすると、
「ジミニヒョン・・・・・・?」
と彼が呟いたのだ。
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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時