you ページ29
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なんやかんやあって、ユンギさんと店を出た。
店を出る直前にオーナーに、明日詳しい話聞かせてもらうぞ、とユンギさんを横目にいわれたのは言うまでもない。
ユンギさんは相変わらず口数が少なかった。口数が少ないというか、もう口がないんじゃないかって言うくらい。
そのあなたの綺麗なお顔についている口と思われるパーツは飾りですか???
なんて口にはできない。絶対無理。
店を出てすぐにユンギさんが言った。
「イムAは駅前の大学に通ってるのか」
はい。と答えると、彼は、
「学費はどうしてるんだ」
と聞いてきた。
「奨学金をフルに使って、残りは新しい父に出して貰ってます」
というと、彼は今までには見たことない安心した表情で
「そうか。よかった」
と言った。私はその違いを見逃さなかった。
何がよかったの? どうしてそんな顔をするの?
「よかったって、何がですか?」
そう聞くと彼は、気まずそうにこう答えた。
その表情も初めてだ。
「いや、ご両親が他界してるって言ってたから、バイトで全部まかなってるのかと思って・・・・・・」
杞憂だったみただな、と呟いた彼は、少し離れたところで飼い主に連れられている犬を見ていた。
尻尾を振りながら愛しい相手を見るかのように飼い主の方を逐一振り返りながら歩いているその犬は幸せそうで、
それを見つめるユンギさんの顔はどこか切なげだった。
そんな彼の横顔を見て、私は思った。
「・・・・・・テヒョンくんは、きっと幸せだったと思います」
口をついて出た言葉に、私は驚いた。
自分でも驚いたと同時に、ユンギさんは私以上に驚き、拍子抜けした顔でこちらを見返してきた。
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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時