jungkook ページ26
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「それでね！ あのフルフェイスの男の人、大邱で会ったあの人だったの！！」
そう嬉しそうに言う彼女は、頭から花が飛んでいるように見えた。
彼女が浮かれているのが手に取るようによく分かる。
「へぇ、それで会えたんだ。よかったじゃん」
適当に返事をすると、俺の隣を歩く彼女は明らかに機嫌を悪くして言った。
「よかったじゃん、って一言で済む話じゃなくない？」
「あぁ何？ それはもう運命だね〜とか言って欲しいわけ？」
こちらも嫌そうな顔で返事をする。誰がそんなこと言ってやるか。
今日もAのために働いた(研究室にスマホを忘れていたのでバイト先に届けた)ので、Aが奢ってくれたフラペチーノを勢いよく吸い込む。
するとそれを見た彼女は不服そうに唇を突き出しながら、
「別にそんなんじゃないけどさぁ」
と別の方向に目を向けた。
俺はお構いなく前方を向く。
俺が向いた方向に人だかりができていた。
すると、そこには彼女が話題にしている張本人、フルフェイスの男がキーボードを前にして立っていたのだ。
フルフェイスの元に駆け寄り二人で演奏を聴く。
一度彼の曲を聴いたことがあるが、悔しいが一言で言うと「心に深く入り込む曲」だった。
別に愛しい人を亡くしたことがあるわけでも、大失恋をしたことがあるわけでもないが、彼の歌うその曲は、誰にでもある心の中の深い闇に問いかけるような、そんな感覚を覚えさせた。
演奏中、何度かフルフェイスがAのことを見ているように思えた。
最初は聴衆にただ目を向けているだけかと思ったが、明らかにAが居る方向をピンポイントで見つめている。
それに気が付き、Aに耳打ちすると、少しAの耳が赤くなった。
･･････気分悪。
一曲を演奏し終わり、さぁ終わりかとぞろぞろと人が離れようとしたところで突然、また彼が演奏を開始したのだ。
それも聴いたことがない曲だった。恐らく彼のオリジナル。
それは一曲目とは違い、終わった愛を尊ぶものではなく、今現在自分が直面している恋についての歌だった。
「わっかりやす」
俺がぼそっと呟くと、Aはちらっとこちらをみたが、何と言ったかまでは聞こえなかったようだ。
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作者名：yurameku | 作成日時：2020年6月29日 15時
