you ページ2
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「あっ、あの!!落ちましたよ!!」
慌てて彼の後ろに駆け寄り、その写真を拾う。
手に取りそれを見れば、一匹の犬の写真だった。
笑顔で舌を出し、カメラの向こう側にいる飼い主に尻尾を振っている様子が見て取れる。
色白の彼がこちらを振り向き、私の手にある写真に気付く。
「あぁ、すみません」
顔を伏せたまま写真を受け取った彼の目がなぜだか潤んでいるように見えた。
彼はその写真をもう一度スキニーのポケットに入れようとしたので、私はそれを手で制した。
驚いて顔を上げた彼の目は、彼の肌の白さと相まって、泣いた後のように赤かった。
「ちゃんとお財布か何かに入れてください。じゃないとまた落としますよ」
大切な写真なんでしょう。
そう私が言うと、彼は不思議そうに私を見やった後、胸ポケットから財布を取り出しその中に写真を収めた。
そのまま彼のことをじっと見ていると、彼は私の視線に気付いた。
「・・・・・・まだ何か?」
親切心で言った私の助言を素直に聞きはしたものの、その冷たい声に冷たい目で私を見る彼を何故か放っておけなかった。
私は慌てて自分の鞄の中を漁った。
確か何個か貰ってたはず。
ごそごそと鞄からバイトで配ったティッシュをいくつか取り出し、彼に渡す。
自分の店の折りたたまれたビラが入ったままのティッシュは数えてみると五つもあった。
彼の細い目がまん丸になり、私が差し出したティッシュと私の顔を交互に見つめる。
「・・・・・・え、なんですかこれ」
明らかに不審なモノを見る目で、彼は半歩後ずさった。
受け取ろうとしない彼の手にティッシュを押しつける。
「あんまり泣くと、そのわんちゃんも悲しみますよ」
そう言い残して私は霊園の方に少し早めに歩いて行った。
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作者名:yurameku | 作成日時:2020年6月29日 15時