＃16 ページ17
“お母さん！どうしてお父さんは帰ってこないの？”
“迷子だからじゃない？”
“大人なのに迷子になるの？”
“…大人だからこそ、迷子になるのかもしれないね。”
“ふーん…変なの〜”
“大人は不思議なのさ”
そんな親子の会話を聞いたことがある。
大人だからこそ迷子に…か。僕にもいつかわかるようになるのかな…？
当時の俺はそんなことを思った。
親父も迷子だったのだろうか。
迷子だから、なにが正しいのかわからないから、人を殺してしまったのだろうか。
ていうか、親父が本当に人を殺したのだろうか。
わからない。
僕はどうしたいのか。
なにがしたかったのか。
なにになりたかったのか。
まぁ、どうでもいいか。
『人間は皆、何者でもない』
そんなの俺が1番わかってるじゃないか。
何者でもない、1番わかっているだろう？
なぁ、クズな僕。
“緊張してるの？”
“なら、みんなのことを野菜だと思ったらいいんじゃない？”
野菜。僕の嫌いな野菜…セロリ…
僕はセロリ。
さぁ、セロリを殺しに行こうか。
どうせお前も俺も100年すれば死んでるさ。
死ぬのが100年早まっただけだろう？
やだ…やめろ…
うるさいなぁ…今体の主導権を握ってるのは俺だよ？
『君に拒否権はないんだ。そろそろあきらめたらどうだい？』
それでも僕は生きたいんだ。いろんな人に迷惑をかけてしまったけど。
まぁ勝手に言っとけばいいさ。
ふざけんな。僕の体を返して。
取り返せるものなら取り返してみろよ。
うるさいよ。生きさせて。僕はまだみんなと話したいんだ。
…まぁいいだろう、返してやる。
そうしてあいつから体を取り返した時にはもう遅かった。
僕は夜空を飛んでいた。
『 』
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作者名：あゆ | 作成日時：2023年5月7日 22時
