揺らぎ【赤】

027 ページ27

終電を前に、解散という雰囲気になる。

私のせいで？私を元気づけようと？ベロベロになったうみくんに二次会に誘われた。

といっても彼は限界寸前だから、二次会なんかに行かせられない。
今日はさすがに責任を取って家に送るべきだろうか。



いつの間にか宮近くんとあの女性は姿を消していた。

せっかく同じ空間にいたのに一度も話せていない、目も合わせられなかった。

あの女性、凄く素敵だったな。

変に宮近くんに触れるわけでもなく、積極的に話しかけるわけでもない。

偶に短い会話を交わしては、目を合わせずに笑っていた。

ただ隣にいるだけで、彼女を大切にしていることが分かってしまう、そんな雰囲気だった。



酔って饒舌になり、こちらに全体重をかけてくるうみくんに軽く相槌をうつ。

忘れ物をしていないか確認しながら、ふと携帯の通知を見て、心臓が止まるかと思った。



申し訳なく思いながらも、先ほどから面倒を見たそうにしている女の子にうみくんを託す。

またいつものパターンになってしまった。


「またね、ありがとう」と小声で伝え、人混みを抜けて、気付かれないように店をでた。



外に停車していたそれっぽいタクシー。

窓ガラスの中が見えづらくても、その姿を見つけられた。

ドアが開いて、目が合い、実感する。

やっぱり今日、話がしたかった。

体を滑り込ませて息を吐く。


『すみません、お願いします』


その声を聞けただけで苦しくて、泣きたくなった。


『強引に、ごめんね。久しぶり』


タクシーではなかなか発せられない言葉だね。

と冗談を言いかけて飲み込む。


「うん、二週間ぶりぐらい？」


今日、何度も脳内で繰り返したセリフが考えるより先に出てきた。


「こっち方向違うよね、宮近くん」
『…送る』


私の家まで、か。

何を言ったら良いか分からなくて、黙ってしまう。

しばしの沈黙、車窓に映る彼の顔を眺めることぐらい、許してくれるだろうか。


『この前は、ごめん。電話とか全然タイミング合わなくて』
「うん、こちらこそ色々とごめん…」


彼の視線がこちらに向いたのが分かった。

さっきからごめんね、って。
お互い何に対して謝っているのだろうか。

028→←026

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す