揺らぎ【赤】

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話は5日前に遡る。
　
大学の同じ学部で、わりと目立つ方の女友達。
彼女のストーリーにあげられた食事があまりにもおいしそうで、スタンプで反応したのが始まりだった。
数回のやり取りの後「良かったら土曜にあるイベントに来ない？」とのお誘い。


予定が空いていたので、軽い気持ちでOKをした、が。


当日送られてきたお店の情報を見て、何となく察してはいたものの…。
地下に続く階段を降りて重い扉を開くと、その非日常感は想像を超えていた。




全体的に黒と赤を基調とした空間、ダウンライトが足元を照らす。
入ってすぐにバーカウンターと、落ち着いて座れる場所がいくつかある。
奥にはDJブースのようなものが見えて、会話を邪魔しない程度のメロウな曲がかかっていた。


お酒を片手に談笑している人たち。
ゆっくりと体を揺らしながら音を楽しんでいる人たち。

みーんな薄い体に小さな顔、髪色が派手、服装は黒め。
そういえば彼女はサロンモデルだかをしていて、その繋がりかもしれない。

明らかに一般人離れした雰囲気を持つ男女が集まってくる。
そんな貸し切りフロアの雰囲気に、胸がざわついて仕方がなかった。


何となーく友人たちとの乾杯を乗り越え、さっそく盛り上がる集団から距離を置く。

ソファに避難して、ふっと一息ついてグラスを見つめた。




その時、ふらーっと一人、私の隣に腰かけた。
男性にしては甘めのムスクが遅れて漂ってくる。


ナカムラカイト、と名乗る彼とはテキトーなノリが似ているなという第一印象だった。
二人のグラスが空くころには、もうすっかり打ち解けていて。
お酒はおいしいよねぇ、でもちょっと照明暗いよねぇと、テキトーな会話をして過ごしていた。



こんなに暗いのに、深めに被った帽子が彼の小顔を際立たせている。
脱ぐ様子はない。
でも、なんだか眠たそうで。

「明日、昼からなんだけどぉ…酒入れるとねんむくて」
「大学あるんだ？」
「いや〜仕事」
「そうなんだ、なんか…美容師っぽい、いい意味で。」
「っハ！うけんね、その答え。おれはねぇ夢を叶えることでお金を貰ってるっていうかぁ…」
「そんなん、スポーツ選手か政治家かしかないじゃん」
「アッハ！！！！！」


私の答えが気に入ったのか。
馬鹿でかい声を上げながら笑った彼は、ご機嫌そうにグッと距離を縮めてきた。

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