揺らぎ【赤】

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CMが一番気まずいかもしれない。

今までの肉食っぽい宮近くんは幻だったのかというぐらい、落ち着いていて静かだ。
お家で二人きりにしては、とても穏やかな雰囲気。


映画のクライマックスシーンだけが、派手に音を立てている。

続いて、缶チューハイをプシュッと開ける音。
いい感じに酔いが回ってきたので、もうこれで終わりにしよう。


『おいしそう』
「なに？」
『それ、甘いの？』
「飲んでみる？」



缶を差し出す、一口飲んで微妙な表情。



『ふーん』


なんだそれ。


『俺のも飲む？』
「うん」



自分に缶を傾ける。



えっ、と思った瞬間には、もう遅かった。


彼の唇からぬるいお酒が流れ込んでくる。
私のよりアルコールが濃くて、苦い。


そのまま、ゆっくりと口内を堪能され、ちゅっと音を立てて離れた。

繋がった銀色の糸を、唇を舐めて切る姿。



好きで好きで、胸が押し潰されるように苦しい。

今日、初めてがこんなキスだなんて。
私の彼氏なんだって実感してしまう。



『どう？』
「味…」
『うん？』
「味わかんなかった」


今度は宮近くんが『なにそれ』と吹き出した。


『もっかい飲む？』
「うん」


唇が付く寸前で会話する。

あんなに穏やかな雰囲気だったのに。

いきなりこんな。

もう映画の内容なんてこれっぽちも頭になかった。


「慣れてる」
『何が』
「色々と」
『なぁにそれ』


宮近くんは私の事をずるいと言うけれど、私からすれば。
遥かにずるいのは宮近くんの方だった。


「ベッド行こ」
『ん、』



寝室に足を踏み入れる。

あの時と同じ間接照明が気恥ずかしくて、笑いそうになった。


後から入ってきた宮近くんが、自然に近づいて頭を撫でる。
そのままグッと固定されて、逃がさない、というように重なる唇。


中に手が入ってきて、うんしょっと上のパーカーだけ脱がされた。


『おまえトレーナーも着てんの、ミルフィーユかよ』


ご自分の発言にツボった模様。

ムードもくそもない発言に、なんだかムカついたので、反撃したくなった。


「トレーナーの下はなんも着てないよ」
『マジで言ってんの？』


と手で服の上からさわさわと確認しようとするので、今度こそ私も笑ってしまった。

付けてんじゃんとちょっと残念そうに言うのも笑ってしまう。

そうそう、こんな雰囲気の私たちだから、居心地がいいのだ。

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