揺らぎ【赤】

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「おれはさぁ、」

火を弱めながら話す彼を、アルコールによって鈍ってきた頭で必死に理解しようとする。


「なし崩しに生きてきたわけよ。可愛い子がいたらテキトーに誘って、キスしてセッ クスして、もちろん、好きだなって思ったら付き合って、けんかして、飽きて、別れて」


レモンサワーを苦そうな顔で流し込む。


「でも海斗は違うんだよ」
「…へっ？」


突然出てきた名前に、心臓がドクンと鳴って、情けない声が出る。

あなたもかいと、おなじかいとでもそのかいとが指すのは海斗で。


彼はお構いなしに続けた。


「海斗はさ、ああ見えて純粋なんだよ、あの顔で」
「…」
「だからすっげえ悩んでんの」
「悩んでる？」


何に、悩んでいるの？
状況が読めない。

そもそも私に言う事なの？
いや、この人、わざと言ってる？


「Aさぁ…」


ひどく動揺して、視線を泳がせてしまう。

柔らかそうな髪をわしゃわしゃと頭を振って整えたうみくんが、そんな私を見て追い打ちをかける。



「どのぐらい好き？っていうかまだ好き？海斗のこと」




カランっと氷が解けた音が鳴った。




「…宮近くんのことなら初めて会った日から、結構、毎日…考えてる」




言葉に詰まってしまうのに、こぼれ落ちていく本音。

これが精一杯だなんて、情けない。
自分の思いを言葉にして、形にするって、こんな大変なことだった？

冗談ぽく言う事だって今までできていたはずなのに。



怖くなってふとうみくんを見ると、なんだか今日一番満足そうな表情をしていて。
思わず眉を顰めてしまう。



「よかった、その反応じゃなきゃ俺、Aのことぶっとばしてるところだった」



ふやけた顔で恐ろしい事を言う彼。



「…こわすぎ」
「だって海斗が最近死にそうな顔してんだもん〜〜」
「いや、宮近くんが悩む必要なんて何も…なくない？」



悩むとしたら、どうやって私を切ろうかな、とか。どうやってもう少し遊んでやろうかな、とか。


肉を焼く手を止めたうみくん。

あぁ、そういうことか、という表情。



「まぁ、二人のことだから、あんま俺が口出しすることじゃないよな…」


それ以上彼が、宮近くんについて言及することはなかったけれど、私を問い詰めるために呼び出したのは間違いないだろう。

名前のないこの関係に終止符を打つ時は、じりじりと近づいてきている。

私はそれを、しっかりと感じていた。

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