恋慕 ページ9
四年間も会ってないと言いつつも、電話くらいは半年に一回あるかないかくらいの頻度で掛かってきていた。うざったいことにね。
そう、いつだったか、母さんから電話が掛かってきたとき。
「ねえ、紅緒！貴女、何かあの子に吹き込んだでしょう」
開口一番にそんなことを言われた。聞かなくても、『あの子』っていうのは織慧のことだって分かる。
はあ？って感じだよね。四年間も会ってないし、連絡の手段なんて実家への電話くらい。そりゃあ、織慧だってもう高校生なんだから自分のスマホくらい持ってるでしょって一瞬思ったんだけど、ウチの家がそんなもの買い与えるわけないよねってすぐに思い直した。都会暮らしを始めて、毒がすっかり抜けてきているらしい。
勿論、そんな人聞きの悪い発言をされたわけだし、私は言い返したよ。
「はあ？何言ってんの？私が織慧個人と連絡取る手段なんかないじゃん。いきなり何なわけ？」
我ながら、だいぶ強い言い方だったと思う。しばらく顔を合わせてなかったから、実家にいた頃よりも吹っ切れたのかもしれないね。でもまあ、母さんの声の方がうるさかったんだけどさ。
「何言ってんの、ですって？！こっちの台詞よ！！」
思わず、受話器を取り落としそうになったよ。慌てて耳から離したよね。それに気がつくはずもなく、母さんはヒステリックに言葉を続ける。
「貴女みたいな育ちの悪い姉がいるから！だからこんなことに、……こんな、不純交遊を！」
「不純交遊ぅ？織慧が？」
高校生なんだし、恋人くらいいてもおかしくはないでしょ。何言ってんの、マジで。反射的におうむ返しにしちゃったけど、聞き間違いかと思ったよ。というか、母さんは普段よりも興奮してるみたいで、めちゃくちゃうるさかった。
「そうよ！！！」
「うっさ……何？どゆこと？一から説明してよ」
そういうと母さんは「貴女が吹き込んだんでしょうに」などと悪態を吐きながら渋々説明を始めた。あ、私がなんか吹き込んだってのは確定なのね。本当ムカつく。
で、話を要約すると、どうやら現在の織慧は一学年下、つまり一年生の女の子と付き合っているらしい。それを母さん達小鳥谷家の大人達は「穢らわしい」と言い、不純交遊扱いしているようだ。
いや、おたくら一昔前の時代に取り残されてない？
って、そう思った。でも今更すぎたわ。むしろ化石よね、化石。
「別にいいじゃん。本人が好きで付き合ってんだったら、浮気とかじゃないのに不純だの言うなよ」
「何よ、偉そうに！貴女のせいでっ」
「いや私マジで関係ないから」
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