繋り ページ6
＊
「そうよ」
織慧は宿題らしき計算ドリルの数式をノートに写して解きながら答えた。
「姉さんの言うように、私は従ってるだけよ」
「そう。……ねえ、嫌じゃないの？」
「前も同じような事を聞いてきたじゃない。言ったはずよ。運命なのだから、仕方がない事なの」
忙しなく鉛筆を走らせながら織慧が言う。声色にどことなく呆きれが滲んでいた。
「運命だか何だか知らないけど、一度だって逆らったことないじゃん、あんたって。少しイラっとしたりとか、そういうこともないわけ」
「不満に感じる事は無いわけじゃないわよ。けれど、慣れて仕舞えば仕方のない事で片付いてしまうの」
「それでいいわけ」
「ええ。どうせずっとこの家に居座り続けるわけじゃないもの」
織慧がそう答えたきり、お互いに口を閉ざす。しんと静かになった。これが小学五年生だなんて、誰も信じられないだろう。
「そう言うだけあって、姉さんはお母様達に反抗的よね。さっきも怒られてたでしょう。何をしたの？」
と、驚いたことに今度は織慧の方からそう訊ねてきた。
「別に。友達の家に行ってただけ。帰ってきたらなんか怒ってた」
「何も言わずに出かけたからでしょう。それに友人は選んだ方がいいって、五月蝿いから。聞かれたでしょう、お友達の人柄」
「まあ、聞かれたけど」
”そういえば”感を出しているがガッツリ聞かれた。答える義理もなかったから適当にあしらって誤魔化しておいたけど。
帰りの間際に女友達に渡されたミサンガをいじくり回していると、織慧が問うてきた。
「どうしたの、それ」
宿題をする手を止めて、身を乗り出して来る。
「今日友達がくれたの。ミサンガ」
へえ、と物珍しそうに織慧が目を丸くする。
「でも、こういうのつけるの柄じゃないんだよね」
「まあ確かに、姉さんはそういう事しなさそうね」
ふふ、と織慧が上品な笑いをこぼす。その顔を見て、何も考えず計算ドリルの上にミサンガを置いた。
「あげるわ」
「え？酷い人ね、お友達から貰ったんでしょう？」
一瞬驚いた顔をした織慧だったが、すぐにいつもの調子に戻った。
「まあ、そうだけど。絶対つけてなんて言ってなかったし、気にしないって。あいつも私とおんなじで適当だし」
「私、欲しいなんて言ってないわよ」
「いいからあげる」
本当になんとなしに言った気まぐれだったし、どうせ突っぱねられると思っていた。だから、ごく普通に織慧がミサンガを手に付けるようになって、本当に驚いたよ。
「あなたが押し付けたんじゃない」って、本人に言ったら呆きれられそうだから言わないけど。
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