S.tiger【病系短編集】16

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Side海人


海「お邪魔しまーす…。」


緊張しつつ上がらせてもらった如恵留くんの家は、びっくりするほどきれいに片付いていた。車いす移動で、床に手をつくこともある俺のために掃除をしてくれたのかもしれない。



海「なんか、ごめんね。」

如「ん？何が？」

海「いや、なんか……急に押しかけちゃって。」

如「そんな、気にしないでよ。俺、すっごく楽しみにしてたんだから。海人と会えるの。」


キリっとしていて一見とっつきにくそうな顔に、優しい笑顔が浮かぶ。その顔は、皮肉にも母親そっくりだ。




俺たちの親は、俺が2歳、如恵留くんが10歳のときに離婚して、俺は母親と一緒に田舎のじいちゃんばあちゃんの家に引っ越した。だから、父親と一緒に東京に残った如恵留くんとの思い出は、残念だけど全くない。




如「俺、ちょっと買い物に出るんだけど、海人はどうする？」

海「あー、俺はいいや。ちょっと疲れたし。」

如「そっか。じゃあ、ゆっくり休んで。」


如恵留くんの温かい手が、俺の頭をポンポンと優しくなでる。行ってきます、とわざわざ俺の目線に合わせて言ってから、如恵留くんは出かけていった。




体力のない俺は実際本当に疲れていて、少し寝てしまいたかった。でも、他人の家っていうのは想像以上に落ち着かない。結局俺は、今日から1か月近くお世話になるこの家を見て回ることにした。



如恵留くんの家は一人暮らしにしては広めで、ほとんどのスペースを車いすのまま通れる。インテリアはシンプルで無駄がないし、冷蔵庫にはほどよくお酒も入ってる。


こんな言い方でいいのかわからないけど、「大人の男性」って感じのするこの生活感が、俺には新鮮だった。




少し調子に乗った俺は、そのまま如恵留くんの部屋にも入ってしまった。中には大きな本棚があって、小難しい本がずらっと並んでる。


でも、その中で一冊だけ、手の届く高さに俺の興味をひく本があった

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