S.tiger【病系短編集】16

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Side松倉





この日の夜、俺は久しぶりにお酒を飲んだ。みんながいる安心感と楽しさで想像以上にペースが上がって、あっという間に酔いが回ってくる。







元「え、ヤバい。しめ寝てんだけど(笑)。」



倉「マジ？」





恐る恐る右隣に手を伸ばしてみると、指先にサラッとした感触があった。しめの声は聞こえない。たしかに、つぶれてそうだ。







閑「今日全員ペース早いもんなー。」



如「ほんと。松倉に会えたから、みんなはしゃいでんだよ。」



海「そういう如恵留くんも、同じ話ばっかするしねー。」





緩い笑い声が聞こえて、またくだらない話が始まる。





グラスの音、いつもよりボリュームの上がったみんなの声。全部、変わらない。楽しそうなみんなの顔を俺だけが見られないこと以外、何にも変わっていない。









如「…それにしても、松倉と話せてよかったなあ。ずっと気になってたからさ。」







ずっと、気になってた。それは、俺も同じだった。







倉「…ごめん。俺、何にも言わないままいなくなって。活動のことだって、本当はもう、」





終わりにするって、俺がちゃんと決断しなきゃいけないのに。







宮「松倉。無理して、急がなくていいよ。松倉が元気なら、それでいいから。」





のんびりした口調で言われて、俺は泣くのを我慢できなかった。見えなくなっても、ちゃんと涙は出る。









倉「…みんな、会いに来てくれてありがとう。」





今は、これしか言えない。未来のことは、何も言えない。今この瞬間に感じられる優しさを全身で受け止めることで、精一杯だ。









みんなは、今どんな顔で俺を見てくれてるだろう。まだほんの少しだけ見える右目をこらしてみるけど、うっすら光を感じるだけだ。







これ以上を求めるのは贅沢なんだと自分に言い聞かせて、俺は酒の入ったグラスの位置を指で探った。

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