. ページ33
.
Aはあの女にそっくりだ。
小せぇ頃はお父ちゃん、お父ちゃんって
よく引っ付いて来たもんだ。と、
我が息子にも見せた事の無い緩み切った顔を
覗かせる度に嫉妬に近い様な感情が渦巻いた。
…どんな奴なんだろ？Aって。
毎回聞かされる話題のせいで、
妹の素性を気にする事は自然な流れだったよ。
しかし小学の高学年の辺りから
酒の量は格段に増え、必ずと言っていい程
家を留守にした次の日は機嫌が悪く、
時折暴力を振るわれる。
新聞配達などで
隠れて貯めていたバイト代さえも全て奪われ、
苦しくて、悔しくて、
自分の存在価値も分からなくなった。
何の為に産まれてきたんだろう…って。
親父への不満は蓄積されていく一方で
オレの心は歪んでいく。
暴力でしか自分の威厳を保てない親父には
尊敬や憧れなんて微塵も無かったね。
早く目の前から消えてくれ、とさえ思ってたぐらい。
…そう、あの事故が起きるまでは。
あの出来事のお陰でオレの周りは一変する。
人間は簡単に裏切る。そういう生き物なんだと
全ての対人関係に見切りを付け、
あの親父が本当に目の前から消えた事に
少なからずホッとしていた。
身代わりになってくれた事には感謝したけど、
これからは何にも縛られず、怯える事も無く
自分と母ちゃんの為だけに生きていける。
それまでの苦しかった記憶のせいで
オレの心は身内の死さえ、冷徹に受け止め
人間らしい感情なんてとっくの昔に消えていた。
見知らぬ土地へひっそりと移り住み、
母ちゃんの事もあって
本当は行きたくも無かった転校先の高校で
オレは今までに感じた事の無い大きな衝撃と
自分の全てが覆る運命の再会をする。
教室の窓際に座る彼女は
物珍しい転校生の事なんて
全く眼中に入っておらず、凛とした綺麗な横顔で
窓の外をぼんやり眺めてた。
キメの細かい色白い肌
同い年には見えない整った端正な顔立ち
指通りの良さそうな色素の薄い茶色の長い髪
夏の制服の袖から伸びた頬杖をつく華奢な腕
そして
深い寂寥感を身に纏い、
１０代らしい夢や希望も無い、絶望感すら感じる
オレによく似たその茶色い瞳から
目を離す事が出来なくなった。
…何か、オレみたい。
そう何か、自分と通ずるモノを感じていた。
その後、担任の計らいで
クラス全員が一言ずつ自己紹介をしてくれた時
思わず耳を疑った。
『…櫻庭Aです。
よろしくお願いします。』
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 205人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき(プロフ) - コメ返ありがとうございます。本当に大好きな作品です。実は私のお誕生日に櫻井さんのお誕生日のお話だったので、とっても感激してたんです。またシリアスな展開になって大変かと思いますが、更新を楽しみにしてますね。主人公ちゃんがんばってほしいです。 (2019年3月14日 11時) (
レス) id: d68d4105ec (このIDを非表示/違反報告)
サフィア(プロフ) - ついこの間この小説の存在をしって一気に読みきっちゃいましたっ。すごく大好きになりましたし、文章とっても大好きです。更新楽しみにしてます！ (2019年3月6日 14時) (レス) id: 34b00c4705 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - さっくさん、更新をいつも楽しみに読ませて頂いています。というか好きすぎて何度も読み返してます。櫻井さんと主人公の関係にキュンキュンドキドキしながら、時に切なくて涙無しには読めません。これからも更新を楽しみにしてますね。 (2019年3月4日 14時) (レス) id: d68d4105ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さっく | 作成日時：2019年2月25日 18時
