一生に一度の恋５ (ページ8)

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…どうしたんだろう？と、
彼の顔色を伺っていたら
私を見つめ、何か思い詰めた様な表情で
話始める。

「……A。…あのさ、この「すんませーん！」

店のドアが開き、賑やかな団体客が
押し寄せて来た。
私と櫻井さんは条件反射の様に
声がした方を見る。

「６人なんやけど、席空いてるー？？
おっ！大将久しぶりやんかー！！」

大きな声で居酒屋の大将に話し掛ける
サラリーマンの後ろの中から
見覚えのある男に気付く。

……っ、マズイ！！
咄嗟に見つからない様に
団体客に背中を向けて、気配を消す。

そんな私の姿に異変を察知した櫻井さんは
騒がしい団体客に目を向けたままの体制で
話し掛けてきた。

「どうした？…もしかして、知り合い？」

『……知り合いってゆーか、あの中に
私のお客さんが居る…』

私も背を向けたまま、そう話すと
彼は空気を読んでくれて
「…もう出るか。」と素早く席を立ち、
お会計を済ませに行った。

その間に荷物をまとめ、
顔を見られない様に下を向きつつ
先に外に出た。

…本当、最悪。
せっかく楽しくご飯食べてたのに、
何でお客さんと会うかな。
マジであり得ない。
しかも、この頃よく来てくれてるリピーターだし
バレたら余計に面倒くさい事になる。

イライラを通り越して、
悲しい気持ちになっていった。

私がこういう仕事をしているからだ。
男性の好意や気持ちを利用して
自分もその気がある様に振る舞う事も
必要に応じてしなければならない。

普通のデートも私には出来ない事なの？
櫻井さんも楽しみにしてくれていたのに…

掌で強く拳を作る。
少し伸びていた爪が皮膚に食い込み
小さい痛みが走るが
悔しい様な腹ただしい気持ちの方が勝り、
更にグッと力を入れた。

しかし、そんな強く力の入った私の手を
大きくて優しく温かい手が包む。
驚いてふっと力を緩めると、
あっという間に指の間に
細く長くて骨ばった指が入り込み、
優しく握られる。

隣を見上げると、櫻井さんが優しく微笑んで
「お待たせ。…次、行こーぜ！(笑)」と
手を引き、ゆっくりと歩き出した。

彼の何も言わない優しさが申し訳無くて
胸がまた苦しくなった。

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