一生に一度の恋５ (ページ15)

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唇を押さえていた左手を外され、
そのまま手を握られる。

「…兄貴の事か？」

『っ、…何で！？』

櫻井さんの予想外の言葉に驚き、
彼と目線を合わせる。

「…自分の重要な過去の事ですら
驚くぐらい冷静に話してきて、
おまけに兄貴の方が大事とか抜かすし…
たまに寂しそうにする顔も
それが引っかかってんだろうなって
なんとなく気付いてた。

…俺はな、お前が思ってるよりずっと
Aの事、ちゃんと見てんだって。」

その言葉に目頭が熱くなって視界が歪み、
涙がポロポロと溢れた。

自分の気付かない所でも櫻井さんは
想ってくれている。
そして、私がカズを何よりも大事に
考えている事も理解してくれていた。
自分には勿体ないくらいの櫻井さんの温かさに
溢れ出る涙の粒は止まらなかった。

『っ、…っカ、カズを１人置いて…
幸せになんかっ、なれない…
…このっ、まま、私だけなんてっ…』

カズの事を考えると
涙が止めどなく流れ落ちた。

嗚咽で上手く話せない私の手を
大きく温かい手で包みながら伝えてくれた。

「…A。お前が優しい人間なのは分かる。
…お前の兄貴もだ。
自分を犠牲にしてまで、相手を思える事が
出来るのは簡単な事じゃねぇ。

けどな、幸せって誰にでも平等に来るんだよ。
遅かれ早かれ人それぞれだ。
幸せになる事に他人がとやかく言う
筋合いはねぇ。
…でもお前自身が、幸せになりたいか
どうかなんかじゃねーの？
兄貴も一緒に、って思うなら…
今までしてきてもらった有難い幸せ、
ちゃんと返してやれ。」

櫻井さんが柔らかく笑う。
そして少し強く手を握られる。

「お前は自分で思ってるより弱くねーよ。
俺のお陰で前向けたって言ったけど、
実際行動を起こしたのはA自身だろ？
元々持ってんだって、そういう力。
…だから心配せず、自信持って笑え。

お前の笑顔は人を幸せにするよ。」

そう言って、テーブルの上に置いてある
ティッシュを取り、
こぼれ落ちていく涙を優しく拭いてくれた。

そしてしんみりした空気をひっくり返す様に
あんま泣いたらブサイクになるぞ(笑)と、
からかう櫻井さんを見て
私にも笑顔が戻った。

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