一生に一度の恋５ (ページ14)

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『…あのね、私本当に櫻井さんに感謝してる。
あんなに自分の過去やカズの過去から逃げて
現実見るのが怖かったのに
櫻井さんが居てくれる様になって、
励ましてくれたり、
私の気持ちしっかり受け止めてくれてるお陰で
独りぼっちじゃないって
安心して前を向いていられるの。
本当、生まれ変わったんじゃないか？ってくらい
強く成長してる。

櫻井さんと出会えて、本当に幸せ。
だから……ありがと。(笑)』

出会ってから思っていた事を
彼の目を見て話したかった。
この機会だからと思い、真っ直ぐ
自分の感謝の気持ちを伝えた。

私に顔を向けて聞いてくれていた櫻井さんは
目線を外し、黙ったまま
手に持っていたビール缶を置いた。

その動作を目で追っていると
突然横からふわっと優しく抱き締められた。

胸がドキッと大きい音を立てる。

少しだけ身体に力が入ったが、
前と同じ香水の匂いに包まれ
櫻井さんの髪の毛が自分の右耳に当たり、
ニット越しでも分かるガッチリと逞しい肩に
心が落ち着いていく感覚が広がり、
私も顔を埋めた。

すると、ゆっくりと身体を離し
まるで大事な宝物を見るような
そんな愛おしそうな顔を向けられる。

「……A。」

低くて心地よい声が耳に響いた。

櫻井さんが私の眼鏡に手を掛けて
ゆっくり外され
お互い何も言わず見つめ合った。

時が止まってしまったみたい。

しっとりとした目線が私の唇を捉え、
彼が目を伏せがちに顔を近付ける。

それを受け入れる様に、私も

目を閉じた。

あと数センチでお互いの唇が重なる
その時、

私の脳裏にある言葉が過る。

《客に対して、そんな甘っちょろい事
考えてるとこの先、

………痛い目見るよ。》

私はハッと目を見開き、
櫻井さんのぽってりした唇を
咄嗟に左の指先で押さえた。

『……待って！！』

自分の動きを制された彼は
目をまん丸くさせて驚いていた。

『…っ、ごめん。
嫌っていう訳じゃないの！
むしろ…嬉しいんだけど……』

あの日の１人、私の部屋を出て行った
カズの後ろ姿がフラッシュバックする。

私には櫻井さんという心の拠り所の様な
安心出来る場所が出来た。

…でも、カズは？何処に頼る？
私にですら何も言わないのなら
カズはずっと「独りぼっち」で
全てを抱えたままでいるの？

答えの見つからない問題に
頭を支配される。

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