過剰な肥料は作物にとって毒物 ページ9
奴に指定されたカフェは人気のない古びれた店だった。
でも、店員の老夫婦の接客はキャピキャピこそしていないが、明るさと暖かさがあった。
指定された時間より少し早く着いてしまったためかまだホークスは来ていなかった。
「すみません。おすすめってありますか」
どうせここは自分が払うんだから先にいっぱいくらい頼んで置いても問題はないだろう。
缶コーヒー以外飲まないから豆などに詳しくない。
手書きのメニュー表は所々黄ばんでいて、この店の歴史を表している。
なんとなくメニュー表の角をいじっていると来客を知らせるベルが揺れた。
「ああ！約束どおり来てくれたんだ」
私を見つけるなり変装か趣味がわからないようなサングラスと帽子を外した。
その表情にあの時のような胡散臭さはなかった。
「こっちは予定が詰まってるんです。早く済ませましょう」
そう言うと苛立ちからか奥歯を噛み締める。
ホークスはコーヒーと砂糖とミルクを頼むと私の目の前の席に座った。
初めのうちは軽口を叩いていたが、素っ気ない返答に愛想でも尽かしたのかだんだんと口数が減ってきた。
昔からそうだった。
こうすれば人は私から離れていってくれた。
ヒーローだから若者のお悩み相談に乗っているだけで、きっと彼自身は私に苛ついている。
「この後は勉強しなくちゃいけないんで……お金はこれで足りますよね」
荷物をまとめて、千円を二枚出して机の上に置く。
手がお札から離れる瞬間ホークスに手を握られた。
悲しそうな顔をしているのに目は怒っていた。
私はこの表情を何度か見たことがある。
受験に失敗したときの母の顔だ。
「もう少しでいいけん俺に時間くれん？」
吸い込まれてしまうようなホークスの双眼にいつのまにか頷いてしまった。
何してるんだ。
カフェを出てからホークスに引っ張られる方について行く。
ここら辺で最も人が寄り付かない公園だ。
数年ぶりにきた公園からは鉄棒とブランコが奪われていた。
「君は、きっとそうやって人との関わりを避けてきたんだ。無個性な自分が傷つかないように」
真っ直ぐな目で言わなくたって自分でも理解してるの。
「俺はヒーローだからそんなことしたって無駄だよ。君に愛想なんてつかさない」
なんでこの人は１６年間私が一番欲していた言葉をくれるんだ。
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作者名：yugi 0434 | 作成日時：2022年5月7日 23時
