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「(ああ──)」
この男にこんな顔をさせるのは、きっと世界にあの子しかいない。
なんだ。そういうことだったのか。
どうしようもない片思いしてるのは、Aじゃなかった。流川の方だった。
「じゃあ」と言うだけ言って体育館の方に歩いて行く流川に、私は無言で会釈をして水泳場へと歩き出した。
そうか、誰にも興味無いように見えた流川楓も人の子だったってことだ。
だってあんなふうに切ない顔が、どんな思いで浮かべられるものか私は知ってる。
気づいたらなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきて、私は溜息と共に空を仰いだ。
「(…違う。アンタが思ってるよりAは流川のことが好きだよ)」
言ってあげない。
アンタと私はライバルだから。絶対言ってあげないよ。
✳︎
「自主練サボんのー?」
「自主練はサボるとかないですよ。自主的にやるんだから」
午後6時過ぎ。部活が早めに切り上げられ着替えを済ませながら、美和は先輩に淡々と返した。
だいたいアンタも着替えてるってことは自主練してかないんでしょ。と、内心思ってるけど言わない。
「てかさ、今日もまじダサかったよね。なんでわざわざ高校から水泳始めんの?って感じ」
先輩がそう言いながら、制服のスカートを二回折る。
それは美和と同じく今年入部した一年の部員のことで、一部の先輩達は中学で文化部だった彼女のことをたびたびそうやって馬鹿にする。
「新品の競泳水着見せられて、どうですか?とか言われてもね」
「…」
こういう人たちのこと、いつも強烈に可哀想だと思う。
とりあえず人をダサいかダサくないかで振り分けて、私はおしゃれで目立つ女子なのよ、と全身で表すことに必死になって。
いいじゃないか、別に。高校から水泳を始めたって、いつ何を始めるのもその人の自由だ。
ていうかまともに練習しないアンタよりずっと偉いよ。競泳水着だって、「いいじゃん」って一言いってあげればいいだけじゃん。
「(…あー…Aに会いたい)」
あの笑顔で早く浄化してしまいたい。こんな気持ち。
いつまでも手鏡の前で濡れた前髪を整える先輩に適当に挨拶をして水泳場を出ると、階段の前に人影があった。
「……あ、」
どこか見覚えのあるその女子。
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Uo(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます❕お褒めの言葉本当に嬉しいです😖ご期待に応えられるよう頑張ります!! (7月29日 20時) (レス) id: a616e905ad (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 絵うますぎませんか? え、うま ビビるほど上手い 尊敬します!! お話もとっても面白いです!応援してます! (6月22日 14時) (レス) @page5 id: c33439ae2b (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - 生粋のまよらーさん» ありがとうございます❕たくさんのご感想に、私も日々活力を頂いています!!気長にお付き合い頂けると幸いです…!! (5月29日 2時) (レス) id: 05f236e790 (このIDを非表示/違反報告)
生粋のまよらー(プロフ) - メープル3続編おめでとうございます!!これからも主様の投稿を心待ちに日々過ごして参ります!!!続編でもコメントします! (5月28日 20時) (レス) @page49 id: 3e4069aada (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - 生粋のまよらーさん» コメント、ありがとうございます❕仙道はのらりくらりという感じで掴みづらいキャラなので上手く表現できるか不安ですが、精一杯頑張ります!!温かいコメント、いつも本当にありがとうございます。とても嬉しいです😖 (5月28日 0時) (レス) id: 05f236e790 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Uo | 作成日時:2023年4月23日 1時