・ ページ15
見上げると、彼がふっと表情を和らげた。
「…オマエに貸すならマフラーにしてもいいかもな」
『恵きゅん…!!!今すごいきゅんきゅんした』
「よかったな」
目を細めた恵に、またキュンと心臓が鳴る。
もう、恥ずかしいからこういう時ばっかり静かにしないでよ、と悟くんを見ると、ニヤニヤ顔の悟くんの奥で赤と緑に輝くショーウィンドウ。
ガラス越しにも輝くそれに、気づいたら引き寄せられていた。
『ねぇ、差し入れこれにしよう!』
指差したのは、白くて大きなホールケーキ。
砂糖で作られた可愛らしいサンタとトナカイが、生クリームの上でソリを引いている。
「まだクリスマスには少し早いよ？」
ショーウィンドウに並んだケーキを眺めて、悟くんが不思議そうに言った。
『じゃあ今日買ってくのは、こっちのタルトにしよ!』
「いいけど、クリスマスにもケーキ買うの？」
『？当たり前じゃない？クリスマスは好きな人と一緒にケーキを食べるんだよ、悟くん』
「…それ、僕も一緒に食べていいの？」
何とも彼らしくない発言に、こっちがキョトンとしてしまう。
甘い物を食べるのに悟くんが遠慮するなんておかしい。というか、遠慮ということ自体、彼がするなんておかしい。
『いいに決まってるよ。ね、恵？』
「…まぁ」
一体何を考えてるんだろう。
どうして悲しそうな顔をするのか、今誰のことを考えてるのか。
私の過去は、最初からすっかり全部悟くんに知られてしまっているというのに、
私はこの人の過去を、本当に何一つ知らないのだ。
『じゃあ約束ね。クリスマスイブの夜、一緒にケーキ食べようね』
「…うん」
『悟くんなんか今日子どもみたい』
「いつもだろ」
「恵もいつも変わらず手厳しいね。僕そろそろ泣きそう」
その日はそのまま高専に行って、先輩達とタルトを食べた。
クリスマスまでは後数日。
宣戦布告があったのは、その数日の間だったそうだ。
✳︎
そして訪れた12月24日。
久我家の一室。テーブルの上には、可愛らしいサンタが乗った大きな白いホールケーキ。
テーブルに項垂れる私と、恵。
クリスマスイブは呪われた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 860人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
hn(プロフ) - 占いツクールの中でいちばんお気に入りの作品です。毎日読み返しています(笑) 無理なさらずに主様のペースで更新頑張って下さい、応援しています！大好きです！！ (12月1日 14時) (
レス) id: de7f57f322 (このIDを非表示/違反報告)
るる - いつも読ませてもらってます！今ユニバとコラボでハリドリとかあるんですけ、ユニバに行く1年ズと五条先生と夢主ちゃんでなんか書いて欲しい。お願いします！リクエストです。 (10月22日 16時) (レス) id: ce86603420 (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - kittoN0さん» コメントありがとうございます❕長らく返信せずに申し訳ありません。更新が無い間なのにコメントを残して下さり、数々のお褒めの言葉、お気遣い凄く嬉しいです。ご期待に沿えるような作品になるようとにかく地味に進めますので、どうぞよろしくお願い致します…!! (10月22日 1時) (レス) id: 64806ac4ef (このIDを非表示/違反報告)
kittoN0(プロフ) - こんなに綺麗で、儚くて、そんな作品は初めて出会いました。もうこのサイトにきてから10年ほど経ちますが、原作のあるお話とはいえ、あなたの言葉遣いや表現の描写がとても美しくて感動しました。またお時間があるときにでも更新してくださいね。 (9月21日 8時) (レス) @page23 id: c5fc518b9f (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - あんずまめさん» コメントありがとうございます❕アニメの渋谷事変が始まったら、また地道に進めようと思っています!気長にお付き合い頂けますと幸いです😖 (6月5日 1時) (レス) id: d9295642a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とま | 作成日時：2022年10月23日 0時
