・ ページ5
・
もういい。ヒーローぶって、ヌナにとっての最大の相談役になる必要はないのではないか。
俺の言葉に、ヌナはゆっくりと顔をあげた。目が合い、ゆっくりと俺は微笑む。
大学二年のガキにこんなことを言われてさぞかし驚いただろう。でも俺は本気だ。
ずっとヌナの背中を追いかけてきた。高校も仲のいい友達と別れ、ヌナと同じ学校に入学した。
部活は吹奏楽に入って、サックスパートを担当した。
今思えば、何とストーカーまがりなことをしたか。
でもヌナに追いつくにはそれくらいしか思いつかなかった。
それくらい、本気だ。
「ヌナ…、俺はずっとヌナのことが好きでしたよ。」
泣き腫らした目がようやく俺をとらえた。困惑したような表情を浮かべたと思ったら、またぽろぽろと泣き始める。
「ごめん…、グク…私」
「今!!!」
思わず大きな声が出る。
あっと思い、声を落として、ヌナに言う。
「今…じゃなくていいんです。これから、ちょっとずつ、俺を見てくれればいいから…。
いつか、俺を男として見てくれればいいから。それが…俺にとっての幸せだから。」
懇願するように、言葉を吐き出す。
再び泣き始めたヌナの背中に手を回して、そっと抱きしめる。
「それ」がいつになるのかはわからない。
明日かもしれないし、来年、もしかしたら数十年かかるかもしれない。
あるいはそんな日が訪れることはないのかもしれない。
別に、それでいい。
こうして、ヌナの隣にいられること。
それが、俺にとっての euphoria だ。
・
78人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:てふ。 | 作成日時:2021年10月26日 20時