ねえ、先輩。＊another story (ページ2)

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ヌナがこんなにも幸せそうに笑う顔も、饒舌になる姿も俺は初めて見た。

ヌナの『好きな人』というのは、同じクラスの奴でいつもイヤホンを耳につけていて、一匹狼。
でも話してみると意外と面白くて、優しい人らしい。

そんな話を俺はぼんやりと聞く。内容がうまく頭に入らない感覚がした。
泣きたいほどつらいのに涙も出ないし、ヌナに対して何か言葉をぶつけることもできない。

ヌナの顔を見ないまま俺は必死に相槌を打つ。

「でもその人、彼女いるんだよ。」

「…へ？」

「二歳下の彼女。同じ部活で、同じパートの子なの。確かに礼儀正しくてかわいくて…あの人が好きになるのも分かるよ。お似合いだし。でも、諦めきれないんだよね…。

馬鹿でしょ？私。」

そう自虐的に笑う彼女に何も声をかけることができなかった。

そんなことない。ヌナは十分魅力的なんだから。

「ヌナ、」

「ん？」

やっと出たのは何とも小っちゃくて、頼りのない声だった。

今すぐここでヌナを押し倒して、ぐちゃぐちゃにして、俺しか見れないようにしてしまいたい。
なんて、汚い考えを必死に振り払う。

「ヌナは、魅力的ですよ。だから…、だから！絶対、幸せになってください。」

「グク＿「俺っ！今日用事あるんで、帰ります！お邪魔しました！！」

ヌナの声も遮って、部屋を飛び出す。息ができない。苦しい。

俺の方がヌナを幸せにできる。でもそれはヌナにとっての幸せではない。

ヌナは手に届くほど近くにいるのに想いが届かない。

自分の部屋に倒れるように駆け込む。大きく息を吸って、吐く。

「ゔっ、うぅ…うぁぁ…！」

それ以降、俺がヌナの家に行くことはなくなった。