9.お嬢様、情緒不安定です。 ページ10
「え、えっと、これは、その、違うんですのよ!?」
慌ててスマホを後ろに隠し、弁明を試みます。
しかしそれも裏目に出てしまったようで。
「“ですのよ”……?」
「あっ、あぁー!違うの!忘れて!忘れてくださいまし!」
「“くださいまし”……?」
「あああああーーー!」
どうしてこうことごとく墓穴を掘ってしまうのでしょう。
そもそも、要領の悪い私が器用に芝居を打つなんて不可能だったんですわ。
がっくりと肩を落とす私に、東雲くんが憐れむように視線を落とします。
そんな目で見ないでくださいまし……
「えぇと、大丈夫……?色々あるんだね、紫原さんも……」
色々という言葉って本当に便利ですね。何も事情を知らずとも、“色々”という言葉に全てを包含できるんですもの。
まったく、慰められたって変わりませんわ!
「……あの。東雲くん。」
不服そうな表情を彼に向けると、彼は首を傾げました。
「今のは聞かなかったことにしてくださいませ。そして、できれば貴方ももう私に干渉しないでくださいな。」
そう捨て台詞を吐いて帰ろうとすると、腕を捕まれて引き戻されました。
「待って。どうしてそんなこと言うんだ?オレ、紫原さんと友達でいちゃいけないのか?」
そう一途に見つめられますとこちらも困ります。
それに、ただ親切にしてくださるばかりか、“友達”なんて……
「……何が目的なんですの?」
「え?」
「お金?地位?名声?もしお父様やお母様とお話ししたいのなら直接───」
「待って。何のことか分かんないんだけど。」
あぁ、もう。私が言うのもなんですが、貴方ってなんて鈍いのかしら。
「だから!私がシハラグループの令嬢だから見返りを求めて優しくしてくださっているのでしょう?と言っているのです!!」
はぁ、はぁ、と息を荒げると、彼はようやく理解したようで、更に驚いたような顔をしました。
「紫原って、あの大手楽器店のシハラ……?」
「そうです!あのマイクもシハラ!スピーカーもシハラ!これも!あれも!このカラオケだってルーツを辿ればシハラの息がかかっているはずです!」
必死にあちこちを指をさす私に、完全に呆気に取られる東雲くん。
ちょうどそうしていると、向こう側の通路から黒髪に青髪がかかった女の子が歩いてきました。
137人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こっとんきゃんでぃ | 作成日時:2022年3月6日 13時