5.お嬢様、わくわくです。 ページ6
カラオケを楽しみにしていたからでしょうか。残りの授業はとても長い時間に思えました。
7限終了のチャイムが鳴ると、私はすぐに教科書を鞄に詰め、支度を始めました。
「紫原さん、準備できた?」
東雲くんから声をかけられると、私は待ってましたと言わんばかりに自然と微笑みます。
「うん、すっごく楽しみ!」
彼は一瞬、心底驚いた様子を見せると、私にこう仰ったのです。
「紫原さんって、笑うんだね。」
「えっ?」
意外な一言が飛んできた私はたじろぎ、思わず聞き返します。
「なんだか、紫原さんってずっとクールだし、オレ達なんかには興味ないって感じなんだと思ってた。」
「そ、そんなことあるわけないでしょう!?」
自分でも食い気味に反論すると、更に東雲くんの瞳は大きく見開かれました。
嫌われるのが嫌なので、そもそもこちらから仲良くしなければいいのだと思っていた私は、友達を作ろうとしませんでした。
無論、友達作りも目標にして神山高校に転校してきた身としては、矛盾極まりないのですが。
「そうだね、誤解だったよ。カラオケだって楽しみにしてくれてたし。」
ふわり、と目元が緩まる彼のお顔を見て、あ、かっこいいなぁ、なんて思ってしまいました。
今までクラスメイトからの質問に答える以外は「はい」か、「いいえ」くらいしか言わなかったものですけれど、考えを改めなければなりませんね。
前の学校とは違う。こんなに良い人がいらっしゃるんですもの。
「騒がしいけど意外とシャイな奴が多くてさ。皆、紫原さんと話したいって思ってるはずだよ。特に、勉強のできない奴らは。」
最後の方は苦笑いを決め込みながらも、そんな親切に声をかけてくださる姿に、また、ときめいてしまいました。
「じゃあ、カラオケに行こうか。一緒に行くメンツはもう校門に集まってるからさ。」
そうして、まだ覚えきれていない校舎内を、彼のあとに続いて歩いていきました。
「あ。」
校門に着く寸前、クラスメイトの皆の姿が見えそうな時、ふいに東雲くんがこちらを振り返りました。
「月並みな表現かもしれないけど……紫原さん、笑ってた方がいいよ、絶対。」
そう言って再び彼は歩きだし、一足先にクラスメイトに話しかけに行きました。
「あぅぅ……」
一方私はというと、ふしゅぅぅ、と音を立ててしまいそうなほど、顔を赤くしていたと思います。
色々と東雲くんに翻弄されながらも、無事に合流することができたので、カラオケへ向かいました。
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作者名:こっとんきゃんでぃ | 作成日時:2022年3月6日 13時