11.お嬢様、帰りたくないです。 ページ12
「組む、ってどういう……?」
「前に父さんから音源を聴かせてもらったんだよね、紫原さんの歌の。紫原さんの声楽の先生が、自慢の生徒だって父さんに自慢するためにCD渡したらしくて。」
いつの間に……?
というか、白石さんのお父さんと私の声楽の先生に接点があったことも衝撃でしたわ。
「日本民謡、オペラ、ポップス……様々な歌唱法を並々ならぬ努力で習得して、それらを独自で融合させた──その人が同級生だなんて!私、いつか紫原さんみたいな人と組みたいなって思ってたんだ!」
そ、そんなに言われると照れてしまいます……
実際にすごいのは先生なのですし、私はただそれを模倣しただけに過ぎません。歌唱法を融合させたのも私ではなく先生の力です。
正直、買い被りすぎですわ。
「待てよ杏。そいつはオレが先に見つけた獲物だ。」
いくら相手がお前でも譲れねぇ、とギラついた視線で白石さんのことを睨む東雲くん。
貫禄のある男の人とはやはり怖いんですのね……。なにぶん、男性といえば、お父様しか知らなかったものですから。
というか、どうして二人は私のことで争っているんですの!?
「ちょ、ちょっと!待ってくださいな!混乱しすぎてついていけませんわ!」
頭を抱えて首を振ったところで、二人は我に返ったような表情でこちらを見ました。
「そー、だよね。まだ何も詳しく言ってないのに組もう、だなんて……ちょっと先走りすぎちゃったかな。」
勧誘はまた今度、学校で会ったらね。とひらひら手を振って、白石さんは去っていってしまいました。
「とりあえず、今日はもう帰らなければなりません。あぁ、お父様に何と言われるか……」
「……もう帰んの?」
まだ来て一時間ちょいしか経ってねーのに、と唇を尖らせる東雲くんに、私は首を振りました。
「楽しい時間はおしまいです。」
「今日はお前が主役なんだぞ?……帰るなら帰るで、挨拶くらいはしてけよ。」
「う……」
それはちょっぴり気の進まないことですわね。
もっと皆と一緒に楽しんでいたい……とは思うのですけれど。
もしも私が皆に挨拶をしたら。
ふと、過去のことと重ねてしまいます。
──えー!もう帰っちゃうの?───
──Aちゃんは仲間にいれてあげない。すぐに帰っちゃうからつまんないんだもん。──
──お母さんが、Aちゃんとは遊ばない方がいいって……もし怪我でもさせたら大変だって──
──本当は、貴女のことなんて皆嫌ってるよ──
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作者名:こっとんきゃんでぃ | 作成日時:2022年3月6日 13時