【名探偵コナン】Pellucid Strawberry 2【安室・赤井】

87.Blissful moment 3 ページ40

自身の本名を突き止められた時点で知られていても可笑しくはなかったけれど、あえて言うタイミングも無く、休みが取れるわけでもなく。
もっと言えば、忘れていた部分もある。


寝起き特有の掠れた色気の含まれる声とか、シーツに包まれただけの身体とか、上目遣いに色々と思うところはあるけれど、開けていいのかと尋ねれば。



「キーケース？」
『...お気に召しましたら幸いです』


ふふ、と笑い少しだけ起き上がったAは、肘をつきおどけてみせた。
メンズ物のブランドのそれは、シンプルだけれどデザインも使い勝手も評判とされる物。


その重さと、チャリ、と音が鳴ったところで、既に鍵が付いている事を察する。
何処の鍵か。



そんなのは、１つしか考えられなくて。




『誰かさんが都度ピッキングしなくてもいいように、一緒にあげるわ』
「...それって、」
『恋人に合鍵渡すなんて、自然な事でしょう？』



その一言だけで、満たされた気分になる。
以前、それで悩み自身を追い詰めていた彼女が、吹っ切れた証拠だから。



「...ありがとう。大事にする」
『...出来れば、来年は、』
「？」


屈んで額にキスを落として感謝の言葉を伝えれば、返事では無く、遠慮がちに開かれた口が紡ぐのはーー



『...来年以降ずっと、貴方の誕生日を隣で祝う事を、許して貰えれば』
「、」



どういう意味で言ったのだろう。
深く考え抜いた言葉か。
本心なだけの懇願か。



彼女の性格からして、後者だとは思うけれど、きっとそれがどれだけ人を喜ばせているかなんて、気づいていないのだろうと。




「...Aって、時々物凄く男前だよな...」
『？そう？』



プレゼントのチョイスから、渡し方から、殺し文句まで。
おかしいな、この手法は本来男性側が多く用いそうなものなのに、と思いつつ、キーケースをそっと箱に戻すと、彼女を思い切り抱きしめた。




彼女の誕生日に、同じくらい愛を込めて何かをすればいい。
幸せな事には、変わりないのだから。





「今日は何処かへ出掛けようか？」
『デート？今日はエスコートするって決めてるの。だから、』



貴方の行きたい所へ行きましょうと笑う彼女が、愛しくて仕方がない。
どうすれば、溢れんばかりのこの気持ちを伝えきることが出来るのだろう。




けれどまだ、1日は始まったばかり。
ゆっくり考えればいいか、と、降谷はAの肩口にキスを落とした。

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