夜のティータイム3 ページ11
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「もう、いきなりは、無しだからな……」
まだ血が溢れてくる首筋を押さえながら、目の前で留守番中の子犬のように縮こまっている彼に申し出る。
「……いやぁ、君の血美味しいから、つい」
まるで反省していないかのように、ケロッと言い訳を述べる彼に呆れた。
思わず首筋から手を離すと、血が手を伝って床から滴り落ちる。そうするとタイスケは、俺の首筋にもう一度顔を埋めて傷口を舐めた。
「ひぃあ!?」
いきなりのことで、防衛本能からなのか握り締めていた拳が彼の頭へと落とされる。
「……っいたぁ!」
彼が離れると、首筋からの血は止まっていて傷口は最初から無かったかのように肌は綺麗だった。
治療してくれるのは、分かるけども反応して出てしまう自分から発していると思われる声がどうしても気にくわなかった。
「……そういうのは、許可を取るのが紳士じゃないのかい?」
「いきなりの方が格好いいだろう?」
血を勝手に吸われたことと、頭を殴られた恨みがお互いの顔を引き付かせた。
数秒睨み合った後、何事もなかったのようにタイスケは床に放置されていたポットを手にとり再びお湯を沸かす。
俺もその光景を眺めようとしたら、少しクラッと眩暈が起こる。これは、おそらく貧血だろう。
「ねー、俺は誰の血を吸えばいいの」
机に前のめりになって、コップに注がれて新しく煙が立つ珈琲を眺めながら聞いた。
すると冷蔵庫の隣にある、いかにも死体が入ってそうな鉄の入れ物から無表情で何かを探る彼に恐怖を感じた。
「はい!」
何の汚れのない笑顔で、俺に“輸血パック”を差し出した。
「いやいやいや」
いやいやいや可笑しいだろそれは。
頭と言っていることがリンクしてしまうほどに、手に無理矢理置かれた少し生暖かいようなリアルな血に困惑する。
なんで俺は輸血パックで、お前は俺から直接吸ってんだよ!と言おうとしたが、此方に無邪気な笑顔を向ける彼にビビってその言葉を飲み込む。
その笑顔の奥では、何を考えているのかさっぱり分からない。いや、分かりたくもないような気もする。
「……あー、えと、お前のは……駄目なの?」
「ダメ」
「っっ」
気恥ずかしく正直な事をいった俺が馬鹿みたいだ。はっきりとした口調で断られたせいか、悔しさが込み上げる。俺は静かに怒りを静めるために唇を噛み締めた。
けれどもしかしたら吸血鬼にしか分からない血の味もあるのかもしれない。そう思い輸血パックを再び目を通す。
「……いや、……無理!!」
誰のかも分からない得体の知れない血液なんか飲めるか!
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作者名:supia | 作成日時:2022年6月26日 10時