泣いている月【泉鏡花】 (ページ1)

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欠けた満月ページ1

「い、たたた…」

不思議な浮遊感がなくなる。
体にのしかかる重力に嫌でも現実を突きつけられた。

「…帰って来ちゃったんだ、私」

見慣れた自室をぐるりと見回す。

そこにはもう、大切な人と過ごした思い出を物語るものは何一つ存在していなかった。

「きょ、うかさん」

自分で決めたことなのに泣くなんて都合がよすぎる。
泣くな、泣くな、と涙を押し込む。

―――――…

私は結局、現代へ帰ることを選択した。

唯一持ってきていた携帯電話。
それにより私は現代で過ごした日々の全てを思い出した。

家族、友達、何もかもを。

きっとあれがなかったら私は鏡花さんに添い遂げることを選択していたと思う。
たった一ヶ月という短い時間だったけど、彼を好きになるには十分すぎる時間だった。

でも、家族や友達を天秤にはかけられなかった。

きっと私がいなくなったことで家族にはすごい心配をかけたと思うし、それは友達だって同じだ。

それに、共に過ごした時間があまりにも違いすぎた。

「……っ」

『僕を思って泣けばいい』

そういえば、鏡花さんはそんなことを言っていたな…

きっと、私はこれから先あなたを思って泣かない日はないのだろう。
こんなに泣いても涙は枯れることを知らないからだ。

神様、あなたはどうしてこんなに残酷なの？

大切なものを手に入れるために、どうして大切なものを失わなければならないの？

私は欲張りだから。だからこんなことになったの？

溢れてくる後悔。

鏡花さんにあんな顔をさせてまで、私は現代に帰る意味があったのだろうか。
勝手に帰ると決めて鏡花さんに背を向けたのは他でもない私自身なのに。

少し欠けた不恰好な満月は、まるで私を嘲笑っているかのようだった。