出逢いの話【泉鏡花】 (ページ3)

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「な、何泣いてるんだよ！僕が泣かせたみたいじゃないか！泣き止めよ！」

周りをきょろきょろと見渡しながら慌てふためく彼。

そうだ、これでは誰かに見られたら彼のせいになってしまう。

私は何とか涙を引っ込めようとするものの涙は止まることを知らない。

「すっ、すみません…っ」

止まれ、止まれ！

目をごしごしと擦っていると、優しい香りが鼻を掠めた。

「あんたに泣かれるのはもう御免なんだよ…っ」

そして不意に手を掴まれそのまま引き寄せられる。

大好きだった香り。安心する温かさ、鼓動。

「A…っ」

とても愛おしい、私を呼ぶ声。

「きょ、うかさ…っ」

全ての記憶が頭の中へ流れ込んでくる。

そうだ、彼だ。私の大好きな、鏡花さん。

どうしてこんな大切な記憶を、私は忘れていたの…？

「鏡花さんっ…、鏡花さ」
「もう黙りなよ」

私の彼を呼ぶ声は、彼の口付けによってかき消された。

もう、これはお別れの口付けなんかじゃない。

そんな彼と私の出逢いの日。